音楽と向き合う真摯な姿勢
庄司紗矢香については、
以前取り上げたプロコフィエフの
ヴァイオリン・ソナタが
素晴らしかったので、
他の盤を探していたのですが、
ベートーヴェン&シベリウスの
協奏曲があったので、
買ってしまいました。
ベートーヴェンはもうそろそろ
いいだろうと思っていたのですが、
日本人演奏家を応援しようと
買った次第です。
庄司紗矢香
ベートーヴェン&シベリウス
ヴァイオリン協奏曲
ベートーヴェン:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 Op.61
(カデンツァ:庄司紗矢香)
シベリウス:
ヴァイオリン協奏曲ニ短調 Op.47
庄司紗矢香(vn)
サンクト・ペテルブルク・フィル
ユーリ・テミルカーノフ(指揮)
録音時期:2017年
じっくり聴いてみました。
好感の持てる演奏です。
きわめてオーソドックスで、
奇をてらったところはありません。
「これが私のやり方だ」などという
自己アピール的な部分の全くない、
純粋に音楽に奉仕し尽くしたような
演奏です。
一聴すると何の特徴もない演奏のように
聴こえてしまう可能性がありますが、
本盤は丁寧に細部まで深く彫り込んだ
演奏なのです。
プロコフィエフのソナタでも
感じたことですが、
彼女のヴァイオリンは実に繊細です。
弱音にこそ、
彼女の魅力が詰まっているのです。
持てるエネルギーを
荒々しく放出するのではなく、
細部を正確に、緻密に、芳醇に
表現することにのみ
注いでいるように感じられます。
ベートーヴェンの協奏曲では
庄司自身が創り上げた
カデンツァを用いているところも
素敵です。
このカデンツァも
刺激的な部分は一切なく、
印象に残りにくいものではありますが、
それがかえって
ベートーヴェンの音楽にも、
そして庄司自身の演奏スタイルにも
合致しています。
独創的なカデンツァを挿し挟めば、
浮き上がっていたことでしょう。
ただし、その分、
「目立たない演奏」になっていることは
確かです。
近年、ことに「目立つ」ベートーヴェンが
増えてきました
(私も大好きなのですが)。
コパチンスカヤも刺激的ですし、
バティアシュヴィリも独創的です。
奇をてらっていないものの中でも、
ハーンの感性豊かな演奏、
シャハムの名人芸のような演奏、
そうしたものと比較すると、
どうしても分が悪くなるのは
致し方ありません。
しかし、何度も繰り返して聴いたとき、
じわじわとその滋味が
耳の奥に染みてくるような演奏は
決して多くはないのです。
日本料理のように、
刺激もなく薄味でありながら、
その奥底に深い味わいを秘めている
演奏であると感じます。
テミルカーノフと
サンクトペテルブルク・フィルも
しっかりとサポートしています。
ロシアの指揮者とオケであるためか、
ややベートーヴェンの輪郭が
しっかりと像を結んでいない感は
否めないのですが、
庄司に寄り添うような伴奏の姿勢は
見事です。
別の指揮者とのコンサートの一部が
YouTubeで公開されています。
もしも、もっと庄司と同じ「型」の
演奏スタイルの指揮者とオケで
伴奏がなされていれば、
さらに味わい深さが
増していたのではないかと
考えられるのも確かです。
叶わぬ希望かもしれませんが、
小澤征爾指揮サイトウ・キネン管を
バックに弾いていたなら、
庄司の意図がより明確に
具現化されていたのでは
ないでしょうか。
併録のシベリウスも
聴き応えがあります。
庄司はもしかしたら
ベートーヴェンのような
古典派の音楽よりも、
20世紀の音楽に近づけば近づくほど
その真価を発揮しているような
感じがします。
庄司紗矢香をもっと聴いてみたいと
思うようになりました。
同じベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ全集も
注目を集めました。
プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲も
評価の高い演奏でした。
ごく最近は、モーツァルトの
ヴァイオリン・ソナタ集を
リリースしています。
目を、いや耳を話せない演奏家が
また一人加わってしまいました。
やはり、音盤は愉し、です。
(2023.3.5)
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