これが21世紀のバッハ演奏だ!
バッハの音楽が苦手だった私ですが、
気がつけばバッハの
無伴奏ヴァイオリンと無伴奏チェロの
音盤が次第に増え、
しかもよく聴くようになりました。
ヴァイオリンの方は、
シャハム盤、イブラギモヴァ盤などを
聴く機会が増えたのですが、
最も取りだしているのが
このファウスト盤です。
これこそ21世紀の名盤といっても
過言ではないでしょう。
イザベル・ファウスト
J.S.バッハ
無伴奏ヴァイオリン
ソナタ&パルティータ全曲
J.S.バッハ:
ソナタ第1番ト短調BWV1001
パルティータ第1番ロ短調BWV1002
ソナタ第2番イ短調BWV1003
イザベル・ファウスト(vn)
録音:2011年
J.S.バッハ:
パルティータ第2番ニ短調BWV1004
ソナタ第3番ハ長調BWV1005
パルティータ第3番ホ長調BWV1006
イザベル・ファウスト(vn)
録音:2009年
これらの演奏は、
きわめて現代的であり、
余分なもの一切をそぎ落としたような、
すっきりとした美しさに満ちています。
音楽が凝縮され、結晶化し、
一音一音がこぼれ落ちる宝石のように、
耳に届いてくるのです。
演奏者の思い入れを排除した、
禁欲的な表現であり、
ただただ一心に音楽に奉仕する姿勢が
心を打つのです。
いったいどこからこのような深い音楽が
紡ぎ出されるのだろうかと、
聴く度に考えてしまいます。
一つは、
ビブラートの効果を抑制的に、
しかし細やかに用いている点にあると
考えています。
それが過度な装飾を削り落とし、
バッハの無伴奏ヴァイオリンの真の姿を
明確に提示することに
成功しているのです。
その研ぎ澄まされた深い音色から、
バッハの無伴奏の深遠な世界が
垣間見えてくるのです。
もう一つは、バッハの音楽の持つ
対称性・対立性といった、
「構造の美」に焦点を当て、
緻密な音の構造物を
創り上げている点にあるのでしょう。
バッハの音楽は、
表面上の美しさだけでなく、
まるで数学で編み上げたような、
その独特の作曲技法にあると
いわれています。
バッハという特殊な作曲家を
細部まで詳細に分析し、
精密な設計図のもとに完成された、
知的なバッハ演奏だと感じます。
使用楽器ストラディヴァリウス
「スリーピング・ビューティー」の
神秘的ともいえる音色が、
ファウストのそうした演奏姿勢を
がっちりと支えています。
モダン・ヴァイオリンでありながら、
ピリオド的アプローチで
奏でられる音色が、
この上ない美しさを
創り上げているのです。
この6曲を収めた音盤ですが、
2010年に後半の3曲が発表され、
その2年後の2012年に
前半3曲が発売されるという、
二段構えのリリースとなりました。
そのため、ジャケット写真も
それぞれで異なります。
前半3曲のジャケット写真は、
どことなく
「屋根の上のヴァイオリン弾き」という
イメージがあり、
自由闊達な演奏を想起させます。
一方、後半3曲のそれは、
弓道家がいまにも弓を引こうとする
姿勢に似ていて、
静かな中に厳粛さを感じさせます。
演奏とはまったく
関係がないのでしょうが、
飾り気のない、しかしセンス溢れる
ジャケット写真からも
多くのことが伝わってくるようです。
私はシェリングの演奏で、
バッハの無伴奏ヴァイオリンを
知りました。
シェリング盤は
今でも愛聴しているのですが、
どこかに重々しい雰囲気があり、
頻繁に聴いてはいけない音楽のように
感じられます。
それが悪いというわけでは
決してないのですが、
毎日聴くことができて、
そのたびにバッハ音楽の神々しさを
感じられる演奏として、
本盤に強く惹かれている次第です。
やはり、音盤は愉し、です。
〔ファウストのバッハ演奏の音盤〕
気がついたら、
ファウストのバッハ演奏の音盤が
数多く登場し、私の購入が
追いつかなくなっていました。
まずはヴァイオリンソナタ集(2枚組)。
こちらも高い評価を獲得した演奏です。
そしてヴァイオリン協奏曲集(2枚組)と
ブランデンブルグ協奏曲全曲(2枚組)。
こちらも素敵です。
そしてこれらと本盤2枚の計8枚、
さらにはDVDまで加えた
BOXも登場しています。
なかなか予算を
回せないでいるのですが、
頑張って購入し、
聴いてみたいと思います。
楽しみはつきません。
(2023.5.28)
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