雑音の彼方のクライスラー
音楽は音が良くなくては愉しめません。
それゆえ私は音盤の音質には
こだわりたいと思っています。
ただし、音質の良くない昔の録音にも
無視できないものは確かにあります。
その筆頭にあげられるのが、
ヴァイオリンの伝説的名手・
クライスラーがEMIに録音した
すべてを収めたこのBOXでしょう。
クライスラー・EMIレコーディングス
Disc1
モーツァルト:
vn協奏曲第4番ニ長調K218
ランドン・ロナルド(指揮)管弦楽団
1924年録音
ベートーヴェン:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
ベルリン国立歌劇場管弦楽団
レオ・ブレッヒ(指揮)
1926年録音
Disc2
モーツァルト:
vn協奏曲第4番ニ長調K218
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
マルコム・サージェント(指揮)
1937年録音
ベートーヴェン:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.61
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ジョン・バルビローリ(指揮)
1936年録音
Disc1-5に収録された、協奏曲における
クライスラーのヴァイオリンは、確かに
素晴らしいものがあると思います。
上品かつロマンティックな演奏は、
近年ではなかなか聴くことが
できないものになっています。
そうした意味で貴重な録音であり、
歴史的遺産といっていいでしょう。
Disc3
メンデルスゾーン:
ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op.64
1926年録音
ブラームス:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.77
1927年録音
ベルリン国立歌劇場管弦楽団
レオ・ブレッヒ(指揮)
しかしながら、やはり音質が
悪すぎます(90年以上前の録音なので
仕方ないのですが)。
Disc1、3、5の協奏曲はすべて
パチパチというノイズ音が
どうしても気になります。
時にはさざ波のように周期的に
(音楽のテンポと全く異なるリズムで)
押し寄せてくるため、
音楽に浸らせてくれません。
その雑音の奥にある音楽を
聴き取る集中力が必要となるからです。
Disc4
メンデルスゾーン:
ヴァイオリン協奏曲ホ短調Op.64
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ランドン・ロナルド(指揮)
1935年録音
ブラームス:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調Op.77
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ジョン・バルビローリ(指揮)
1936年録音
一方で、Disc2、4の録音のノイズは
ほとんど気になりません。
バルビローリが伴奏した
ブラームスなどは
オーケストラもいい出来であり、
鑑賞に十分堪えうる音だと思います。
Disc5
ブルッフ:
vn協奏曲第1番ト短調Op.26
ロイヤル・アルバート・ホール管弦楽団
ユージン・グーセンス(指揮)
1924年録音
クライスラー:弦楽四重奏曲イ短調
クライスラー弦楽四重奏団
フリッツ・クライスラー(vn)
トマス・ピーター(vn)
ウィリアム・プリムローズ(va)
ローリー・ケネディ(vc)
1935年録音
Disc5に収録された
クライスラー作曲の弦楽四重奏曲は
ノイズが少ない状態での録音であり、
他の団体の録音が
少ないことを考えると、
この録音はかなり貴重でしょう。
Disc6
ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ
第1番ニ長調Op.12-1
第2番イ長調Op.12-2
第3番変ホ長調Op.12-3
第4番イ短調Op.23
フランツ・ルップ(p)
1935年録音
Disc7
ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ
第5番ヘ長調Op.24「春」
第6番イ長調Op.30-1
第7番ハ短調Op.30-2
フランツ・ルップ(p)
1936年録音
Disc8
ベートーヴェン:
ヴァイオリン・ソナタ
第8番ト長調Op.30-3
第9番イ長調Op.47
「クロイツェル」
第10番ト長調Op.96
フランツ・ルップ(p)
1936年録音
Disc6-8の3枚にまたがる
ベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ全集は、
雑音がほとんどなく音質も良好です。
ただし、これだけ多くの
優秀な演奏が出てしまうと、
好んでクライスラー盤を聴くというのは
難しいと思われます。
Disc9
クライスラー:
ウィーン奇想曲Op.2
中国の太鼓Op.3
美しきロスマリン
ジプシーの女
愛の悲しみ
愛の喜び
バッハ/クライスラー編:
パルティータ第3番ホ長調BWV1006
~ガヴォット
クライスラー:
気取った曲
ルイ13世の歌とパヴァーヌ
モーツァルト/クライスラー編:
セレナード第7番ニ長調K250
「ハフナー」~ロンド
クライスラー:
ロンディーノ
シューベルト/クライスラー編:
ロザムンデ~バレエ音楽ト長調
ヴェーバー/クライスラー編:
ヴァイオリン・ソナタ へ長調
~ラルゲット
バッハ:
ソナタ第1番ト短調BWV1001
~アダージョ
シューマン/クライスラー編:
ロマンス イ長調Op.94-2
フランツ・ルップ(p)
ミハエル・ラウハイゼン(p)
アルパド・シャンドール(p)
Disc9,10の小品集が
とりわけ素敵です。
このBOXを購入する以前から
単発のCDを所有していたので、
もう何度も繰り返して聴きました。
ただ、両盤とも後半になるにつれて
録音が古くなり、音質が悪く、
聴きにくくなってきます。
Disc10のバッハ・エアなど、
ノイズまみれの劣悪な状態です。
それでもこの2枚が
もっともクライスラーらしい演奏と
いえるのではないかと思います。
Disc10
メンデルスゾーン:
無言歌第25番ト長調Op.62-1
「5月のそよ風」
ショパン/クライスラー編:
マズルカ第45番イ短調Op.67-4
ポルディーニ/クライスラー編:
踊る人形
ドヴォルザーク/クライスラー編:
ユーモレスクOp.101-7
チャイコフスキー/クライスラー編:
弦楽四重奏曲第1番ニ長調Op.11
~アンダンテ・カンタービレ
R=コルサコフ/クライスラー編:
「金鶏」~太陽讃歌
リムスキー=コルサコフ:
インドの歌
グラズノフ/クライスラー編:
スペインのセレナーデOp.20-2
トラッド/クライスラー編:
ロンドンデリー・エア
スコット/クライスラー編:
はすの国Op.47-1
ファリャ/クライスラー編:
7つのスペイン民謡~第4曲「ホタ」
ファリャ/クライスラー編:
はかない人生~スペイン舞曲第1番
ブランドル/クライスラー編:
オールド・リフレイン
ホイベルガー/クライスラー編:
オペラ舞踏会~真夜中の鐘
クライスラー:
ディッタースドルフの
スタイルのよるスケルツォ
バッハ/ウィルヘルミ編:
エア(管弦楽組曲第3番より)
クライスラー:
プロヴァンスのオーバード
チャイコフスキー:
無言歌Op.2-3
アルパド・シャンドール(p)
フランツ・ルップ(p)
ミヒャエル・ラウハイゼン(p)
クライスラー弦楽四重奏団
「音楽を愉しむ」というよりも
「クライスラーのヴァイオリンの腕前を
味わう」という聴き方に
なってしまうのは仕方ありません。
そのためどうしても
年に1度くらいしか当BOXに
手が伸びないのも事実です。しかし
「所有していていつでも聴ける」という
ことが大事なのだと自分に言い聞かせ、
処分せずに保管している次第です。
昔々の素敵なヴァイオリン、
味わってみませんか。
(2022.1.23)
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