モーツァルトに影響を与えた鮮烈なメロディ
これまでミスリヴェチェクの
ヴァイオリン協奏曲集、そして
管楽八重奏曲集を聴いてきました。
今回、ようやくシンフォニア集を入手、
聴くことができました。
やはりモーツァルトっぽい音楽世界が
展開しています。
いや、ミスリヴェチェクの方が
モーツァルトより20年近く
先輩なのですから、モーツァルトが
「ミスリヴェチェクっぽい」というのが
正解でしょう。
事実、モーツァルトは
このミスリヴェチェクの音楽から
多大な影響を受けているというのです。
ミスリヴェチェク
「シンフォニア集」
ミスリヴェチェク:
序曲 イ長調
シンフォニア ヘ長調
シンフォニア ハ長調
シンフォニア ト長調
シンフォニア 変ホ長調
協奏交響曲 ハ長調
コンチェルティーノ第1番変ホ長調
コンチェルト・ケルン
ヴェルナー・エールハルト(音楽監督)
録音:2004年
なんとミスリヴェチェクは
約50もの交響曲(シンフォニア)を
残しているのでした。
その中から6曲、そしてもう1曲・
コンチェルティーノの7曲が
本盤に収録されています。
交響曲といっても、当時は
オペラの序曲としての扱いであり、
サイズは短め(10分未満)です。
最も長いヘ長調シンフォニアでさえ、
3楽章9:53
(第1楽章2:59/第2楽章2:41/
第3楽章4:13)なのです。
しかしその短い中に、
愉悦に満ちた旋律が
実に豊かにちりばめられています。
「おもちゃ箱をひっくり返したような」
という表現がぴったりの
音楽となっているのです。
その煌めきはモーツァルト以上です。
1曲目、「序曲イ長調」は、
鮮烈かつ軽快な第1楽章から始まり、
しっとりと美しい第2楽章Andante、
そして再び軽快な第3楽章へと
続いていきます。
2曲目の「ヘ長調シンフォニア」も
似たような構成です。
こちらの第2楽章は
さらに素朴な美しさに満ちています。
3曲目「ハ長調シンフォニア」は、
解説によると最も早い時期
(1767/68)に出版された作品です。
それでも全体としての完成度は
高いものとなっています。
4曲目「ト長調シンフォニア」は、
流れるような美しさの
第1楽章が素敵です。
そして第2楽章では
オーボエの奏でる旋律が
深い味わいを醸し出しています。
5曲目の「変ホ長調シンフォニア」は、
第2楽章の憂いを秘めた旋律に
惹かれてしまいます。
6曲目、もう一曲の
「ハ長調シンフォニア」は、
これまでの5曲と異なり、
第1楽章はしっとりとした
始まりとなっています。
全体的に弦楽の艶やかさが目立つような
つくりとなっています。
素敵なシンフォニア
6曲が続くのですが、
最後に収められた
「コンチェルティーノ」が
さらに輝いています。
演奏時間も最長の14:45。
「ホルン、フルート、オーボエ、
クラリネット、ファゴット、
弦楽のための」の副題が示すように、
いくつもの管楽器のソロの場面が
効果的に設定されてあり、
聴く側以上に演奏者たちが
愉しみながら奏でているようすが
伝わってきます。
本盤一枚をじっくり聴き終えると、
十分な満足感に浸ることができます。
コンチェルト・ケルンは
古楽器オケらしく
きびきびとした演奏を展開し、
ミスリヴェチェクの音楽の旨味を
見事に引き出しています。
録音も満足できるものであり、
オーボエやフルートの素朴な響きが
マイクにしっかりと捉えられています。
いろいろな面で
味わい深い音盤となっているのです。
ヴァイオリン協奏曲集の記事において、
「モーツァルトの名声に比べて、
ミスリヴェチェクの名前は
ほとんど埋もれたままになっているのは
どうしたことか?」と記したのですが、
本盤解説を読んで納得しました。
「名前が風変わりなので、
ただ単に”あのボヘミア人“と
呼ばれ」たこと、そして
「病に罹り手術を受ける。
しかし、その手術が失敗して
容貌を損ね、上流社会の寵児を
瞬く間に失って」しまったことなどが
原因だったのでした。
もしもミスリヴェチェクが
病に罹らなかったら、
あるいは藪医者ではなく
腕のよい医者に診てもらっていたら、
彼の名声はこれほどまでに
埋もれてなどいなかったのでしょう。
埋もれてしまった音楽にも、
魅力あるものがたくさんあるのです。
それらを掘り起こして味わっていくのは
本当に愉しいものです。
今年もたくさんの新しい音楽を
愉しんでいきたいと思います。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.1.7)
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