オケゲム「世俗音楽全集」を聴く

ロンドン中世アンサンブルの描く豊穣な世界

このところ何度か繰り返して
聴いていた音盤がこのオケゲムです。
「世俗音楽全集」と題された
二枚組の音盤。
なかなかに聴き応えがありました。

オケゲム「世俗音楽全集」
ロンドン中世アンサンブル

Ockeghem

オケゲム:
 口には笑みを湛え
 妾はあの方に捨てられ
 恋の相手を変えたのなら
 まことの苦しみが訪れようとするとき
 他の人のことなど
 ほとんど死んでいるとも
  いえるほどに傷ついた私は
 わが姫君こよなく
  心を惹きつける愛しい人よ
 不実な者たちが
 死よ、そなたは矢で傷つけてしまった
 ただあなたのお姿を見失うだけで
 私が悩んでいることを
 あなたの恋の手習いは
 いまはもうただ
  死を心待ちにするよりほかに
 去年のある日すれ違ったとき
 あの人が私を
  想うてくれるかどうかは分らぬが
 おお美しい薔薇よ
 まこと優しい心で
 妾は悲しいのです(Version 1)
 不幸が私を襲い
 もしあなたの心が
 どんな生き方をしているのかと
  お尋ねですか(コルナゴ作)
 どんな生き方をしているのかと
  お尋ねですか
 妾は悲しいのです(Version 2)
 恋するお人から離れているのは
 フランスの国びとよ
 きみよ、別れ給え
 他の男のものになったからには
 あなたは間違いもなく
  もうひとりのヴェヌス
 されば私に接吻をはげしく
 私があの方に約束したことをのぞけば

ロンドン中世アンサンブル
ピーター・デイヴィス(指揮)
ティモシー・デイヴィス(指揮)
録音:1981年

※Amazonの音盤情報はこちらか

ヨハネス・オケゲムは、
ルネサンス初期の作曲家であり、
フランドル楽派の指導的役割を果たした
音楽家でもあります。
16世紀以前の作曲家には、
生年をはじめ、
その生涯が明らかになっていない場合が
多いのですが、
オケゲムもその例に漏れません。

現在残っている作品は
決して多くはなく、
ミサ曲14、レクィエム、モテット9曲、
世俗歌曲(シャンソン)21曲と
いわれています。本盤は
「世俗音楽全集」となっているのですが、
この世俗歌曲21曲だけでなく、
他の作曲家の作品とオネゲル編曲版、
また「妾は悲しいのです」については
3声版と4声版の両方、
そして真作・偽作の判断の難しい作品も
収録されるなど、内容は充実、
「全集」の名に
恥じないものとなっています。

ロンドン中世アンサンブルの音盤は、
デュファイの「世俗音楽全集」(5枚組)に
次いで二組目の所有となります。
そちらも見事な演奏でしたが、
本盤も透明感溢れる声楽に
魅了されます。
初期ルネサンス期のシンプルな構成は、
心に染み入ってくるのですが、
それも高度で正確な演奏であればこその
ものなのです。

1410 Ockeghem

簡単な器楽が
伴奏として聴き取れるのですが、
ほぼ少人数の男声での
アカペラの音楽です。
静謐さの中に
音楽の豊穣さを感じさせます。
中世の音楽がこのオケゲムを経て
彩り豊かなルネサンス音楽へと
進化した、その流れの変化が
実感できます。

もちろん、
展開には大きな変化が見られないため、
2枚で130分を通して聴くのは
さすがに辛いものがありますが、
もともと通して聴く性質の
音楽ではありません。
毎日片方ずつを聴いていました。

こうした音盤が創られ、
そして残されたことに
何より感謝すべきでしょう。
やはり、音盤は愉し、です。

(2024.5.5)

〔オケゲム「世俗音楽」の音盤〕
1981年録音の本盤以降、
目立ったものがありませんでしたが、
近年、ジェシー・ローディン指揮による
カット・サークルという団体の音盤が
登場しています。
こちらも2枚組で、
24曲が収録されています。

〔ロンドン中世アンサンブルの音盤〕
この団体がオワゾリール・レーベルに
残した録音すべてを収めた
14枚組のBOXが発売されています。

〔オケゲムの音盤〕
ミサ曲やレクイエムを収録した音盤が
いくつか出ています。
こちらも注目です。

Requiem, Missa
Complete Songs
Cappella Pratensis
Peter HによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

【こんな音盤はいかがですか】

Heinrich Schütz
「Colors」Walter Auer
kuniko plays reich II
Danse de l’Âme サヤ・ハシノ
パスティッチョ
コッペル:室内協奏曲集
ジャニーヌ・ヤンセン
ペルト、バッハ 作品集
17世紀フランス宮廷の歌曲

コメントを残す