カルミナ・ブラーナ~1300年頃の手写本より

それらは素朴でありながら野趣に溢れた音色

「カルミナ・ブラーナ」といえば、
今日ではもっぱら
カール・オルフの作曲した
世俗カンタータの方を指すのですが、
そのもととなっているのはこの
南ドイツ・バイエルン州にある
ベネディクト会のボイレン修道院で
発見された詩歌集なのです。
これがまた素敵な味わいです。

カルミナ・ブラーナ
 ~1300年頃の手写本より

Carmina Burana

作者不詳(1300年頃):
 カルミナ・ブラーナ
  道理と非道は
  春の楽しき時に
  真夏の暑さのもとで
  ギデオンの支配せる地に
  ただ愛するは故郷のみ
  ジュピターとマーキュリー
  祭典によせる名は
  わが運命は
  望みなきいのちに
  凍りつく時は去り
  祝いの日は輝く
  夜明けに
  草むらの中に
  言っておくれ
  憎しみのなせる誹謗
  処女マリアの嘆き
  小間物屋さん、紅をください
  世は喜びに満ちあふれる
  若者たちに栄えあれば
  言ってごらんなさい
  小間物屋さん、紅をください

ミュンヘン古楽スタジオ
ミュンヘン・マリア児童合唱団
クルト・リット(合唱指揮)
トーマス・ビンクリー(解読・編曲)
録音:1969-1973年頃

中世の音楽といえば、
グレゴリオ聖歌に代表されるような、
「静謐な音楽」という
イメージがあります。
しかしそれは宗教曲のものであり、
世俗音楽は違います。
太鼓が荒々しく響いたと思えば
ラッパが下品に鳴る、
そうかと思えば寂しげな旋律が
切々と奏でられたりと、
実にめまぐるしい
変化と躍動があるのです。

ブックレットに記載されている、
全21曲それぞれの編成を見るだけで
興味がそそられるはずです。
第1曲は男声合唱の伴奏として
「つぼ型太鼓」(いったいどんな太鼓?
他の曲でも使用されている)と
「鈴」が記されています。
以下の曲も「フィーデル」「レベック」
(両者ともヴァイオリン状の撥弦楽器)
「長柄のリュート」
(柄が長い?どのくらい?)
「オルガネット」
(ふいごを左腕でこぎながら
風圧をかけて発音させるオルガン)
「ポンマー」(オーボエの祖先のような
木管楽器)などが登場します。
それらは素朴でありながら
野趣に溢れた音色を響かせます。

Carmina Burana

本盤は中世「カルミナ・ブラーナ」録音の
最初期のものであり、おそらく
研究は十分には進んでいなかったものと
思われます。
何しろ楽譜とは似て非なる
「ネウマ譜」を解読し、音として
組み上げていく必要があるからです。
しかし、本盤は
非常に分かりやすい音楽として
仕上がっています。
必要最小限の人数で、シンプルに
創り上げられているからです。

もともと録音が優秀だったのか、
あるいは優れたリマスタリングが
施されているのか、
再生機器から現れる音楽は鮮明であり、
録音の古さを感じさせません。
目を閉じて聴き入ると、
すぐそこに演奏者がいて、
その息づかいさえも感じられるような
錯覚を起こします。

現在ではこの中世の
「カルミナ・ブラーナ」も、
いくつかの録音が登場しています。
私も本盤のほかに、
フィリップ・ピケットが
80年代に録音した4枚組の録音、
そして90年代の
モード・アンティクオのものを
持っています。
演奏そのものは、
本盤よりもそちらの方が優れていると
感じるのですが、いざ聴くとなると、
ついつい本盤に手が伸びてしまいます。
本盤の演奏の良さは
「シンプル」という一言に尽きるのです。

想像するに「カルミナ・ブラーナ」は、当時
サブカルチャー的存在だったのでは
ないでしょうか。
厳かな宗教音楽の対極にある
民衆の音楽であり、
その生命力を最大限に
デフォルメしたのがオルフの
「カルミナ・ブラーナ」なのでしょう。
「中世」と「オルフ」、聴き比べてみると、
両方しっかり愉しむことができます。
やはり、音盤は愉し、です。

(2024.3.31)

〔中世「カルミナ・ブラーナ」の音盤〕

〔オルフ「カルミナ・ブラーナ」の音盤〕

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