バスク地方に思いを馳せた素敵な音盤
何か珍しいラヴェルのピアノ協奏曲が
聴けるだろうと思い、
購入した一枚です。
でも、手元に届いて
曲目を確認してびっくり、
バロック期のクープランやラモーが
いるかと思えば
現代作家のフィリップ・グラスが、
そしてなんとイーグルスの
「ホテル・カリフォルニア」が。
ごった煮のようなアルバムなのですが、
そこにあるコンセプトは?
「ゲタリー」
~オーレル・マルタンと仲間たち
フィリップ・グラス/ボレル編:
Invitation
~映画「フォッグ・オブ・ウォー」より
シャルマン:
ゲタリー
サン=サーンス:
水族館(ソロ・ピアノ版)
~「動物の謝肉祭」より
イグレシアス:
O Night Divine
~映画「O Night Divine」より
ラヴェル/ルカ・アンリ編:
ピアノ協奏曲ト長調
(ピアノと八重奏版)
イグレシアス:
Piano Bar y coro infantil
~映画「ペイン・アンド・
グローリー」より
ストラヴィンスキー:
ロシアの踊り
~「ペトルーシュカ」より
ドノスティア:
悩み~「21のバスク風前奏曲」より
アルベニス:
海辺にて~「旅の思い出」より
ラモー:
未開人~「新クラヴサン組曲集」より
サラサーテ:
ピエールと子守歌 Op.17
F.クープラン:
バスク人
~「クラヴサン曲集第2巻」より
アマール:
ゲルシュタインのテーマ
(ヴァイオリンとピアノ版)
~映画「ホロコースト・アドルフ・
ヒトラーの洗礼(Amen.)」より
リヒター/スミルノフ編:
Andante/Reflection(End Title)
~映画「戦場でワルツを」より
イーグルス/ヴォルムス編:
ホテル・カリフォルニア
ラ・ファム/ヴォルムス編:
Sur la planche
オーレル・マルタン(p・芸術監督)
ドミトリー・スミルノフ(vn:5,11,13,14)
アドリエン・ボワソー(va:5,14)
カロリーヌ・シプニエフスキ(vc:5,14)
セレスタン・ゲラン(tp:5)
マチルド・カルデリーニ(fl:5)
アモリ・ヴィデュヴィエ(cl:5)
ニコラ・ラモト(perc:5)
ドミ・エモリーヌ(アコーディオン:5)
ヴィクトル・ジャコブ(指揮:5)
録音:2022年
ネットで本盤の宣伝文を見て納得、
ピアニストのオーレル・マルタンが、
故郷であるフランス領バスクの港町
ゲタリーに思いを馳せて作った
アルバムなのだとか。
それでこのような
曲目になっているのです。
ところで「バスク地方」とは?
バスク地方は、
ピレネー山脈の両麓に位置して
ビスケー湾に面し、
フランスとスペインの両国に
またがっている地域です。
スペイン側にはバスク州の3県と
ナバーラ州の計4領域があり、
フランス側にはフランス領バスクの
3領域があります。
「バスク人」という民族が住み、
「バスク語」という言語も
存在しているのです。
また、民族としての独立を求める
ナショナリズム運動もあり、
民族的自覚の強い地域なのでしょう。
本盤の中心は、
やはりラヴェルのピアノ協奏曲です。
そのラヴェルもスペインにほど近い
フランス領バスク地方のシブールで
生まれているのですから、
最も重要な作曲家といえるわけです。
八重奏曲としての編曲ですので、
音の厚みはうすくなっているのは
当然なのですが、その代わりに
ピアノの比重が大きくなった分、
この曲の煌びやかな印象が
強まっているのです。
とても面白い演奏であり、
この曲の素敵な演奏の一つとして
お薦めできます。
生まれがバスク地方であるのは、
サラサーテも同じです。
「ピエールと子守歌 Op.17」は、
サラサーテらしい
ヴァイオリンの優雅なメロディが
魅力的な小品であり、
ここだけ繰り返して聴いてしまいます。
ドノスティア(1886-1956)の
「悩み~21のバスク風前奏曲より」や、
クープランの「バスク人
~クラヴサン曲集第2巻より」などは、
「バスク」という言葉が表題の一部に
なっているため分かりやすいのですが、
その他の曲がどのように
バスクと関わっているのか、不明です。
発売元の情報としては、
「バスクや海の印象を元にした、
あるいは近い雰囲気を持つ
有名無名の曲が集められた」と
ありますので、
単に「海の風景の雰囲気が近い」程度の
理由のものもあるのかも知れません。
日本語解説が付されていないため、
よく分からないものもあります
(英文解説を読めない悲しさ…)。
イーグルスの
「ホテル・カリフォルニア」に至っては、
原曲の雰囲気が全く失われ、
沈鬱なピアノ曲になっています。
もっとも軽いノリのアレンジであれば、
つまらないものに
なってしまうのですが。
最後の
ラ・ファム/ニコラ・ヴォルムス編曲の
「Sur la planche」も
ロック音楽なのだそうですが、
原曲を知らないため、
何がどうアレンジされているのか
私には分かりませんでした。
それでもごった煮のように見えて、
音が紡ぎ出す世界には、
なにがしかの統一されたものが
感じられます。これは
オーレル・マルタンの力量でしょう。
YouTubeに、レーベル製作の
このアルバムのPV、そして
演奏者マルタン自身のチャンネルにも
音源の一部が公開されています。
参考にしていただければと思います。
聴き通すと、
素敵な1時間を体験できます。
やはり、音盤は愉し、です。
〔本盤に収録されている作曲家〕
F.クープラン
François Couperin (1668-1733)
ラモー
Jean-Philippe Rameau (1683-1764)
サン=サーンス
Camille Saint-Saëns (1835-1921)
サラサーテ
Pablo de Sarasate (1844-1908)
アルベニス
Isaac Albéniz (1860-1909)
ラヴェル
Maurice Ravel (1875-1937)
ストラヴィンスキー
Igor Stravinsky (1882-1971)
ドノスティア
Jose Antonio de Donostia
(1886-1956)
フィリップ・グラス
Philip Glass (1937-)
アマール
Armand Amar (1953-)
イグレシアス
Alberto Iglesias (1955-)
リヒター
Max Richter (1966-)
シャルマン
David Chalmin (1980-)
〔オーレル・マルタンの音盤〕
〔関連記事:ラヴェル・ピアノ協奏曲〕
(2023.8.20)
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