ジョン・ネルソンのベートーヴェン交響曲全集

すべてがお洒落なベートーヴェン

このところ聴いていたのが、
このベートーヴェン交響曲全集です。
近年の全集は素敵なものが出ていて、
ベートーヴェン像が
一新されていくのですが、
本盤もまたしかりです。
イメージとしては「お洒落」。
なんともお洒落なベートーヴェンです。

ベートーヴェン「交響曲全集」

Nelson Beethoven

ベートーヴェン:
DISC1
 交響曲第1番ハ長調op.21
 交響曲第2番ニ長調op.36

Disc1

DISC2
 交響曲第3番変ホ長調op.55「英雄」
 交響曲第4番変ロ長調op.60

Disc2

DISC3
 交響曲第5番ハ短調op.67「運命」
 交響曲第6番ヘ長調op.68「田園」

Disc3

DISC4
 交響曲第7番イ長調op.92
 交響曲第8番ヘ長調op.93

Disc4

DISC5
 交響曲第9番ニ短調op.125「合唱」

Disc5

ギレーヌ・ジラール(S)
マリヤーナ・ミヤノヴィッチ(A)
ドナルド・リタカー(T)
Hao Jiang Tian(Bs)
パリ・オラトリオ合唱団
パリ室内管弦楽団
ジョン・ネルソン(指揮)
録音:2005年・2006年

本盤の味わいの一つとして、
小編成オーケストラによる
細部の彫刻の明瞭さを
挙げることができます。
演奏のパリ室内管弦楽団は
34名という小編成オケです。
各パートの音を
明確に聞きわけることができ、
それらの音の絡み合いの妙を
愉しむことができるのです。
特に弦が少ない分、木管の美しさを
はっきりと聴き取ることができ、それが
「お洒落」に聴こえてしまうのです。

大編成オーケストラの豊潤な演奏を
聴いたあとにこれを聴くと、
厚みがなくスカスカしたような
物足りなさを
感じてしまうかも知れません。
旧来の演奏が好きな方には
まったくお薦めできないのですが、
こうした見通しのよい
「お洒落」なベートーヴェンを
堪能できるのは幸せです。

使用楽譜はベーレンライター版。
となると古楽器演奏が連想されますが、
このパリ室内管弦楽団は
モダン楽器オケです。
基本的には現代奏法ですが、
もちろんピリオド的アプローチも
取り入れられています。
テンポはかつての
ベートーヴェン演奏からすると
速めの設定ですが、
近年流行の超高速演奏ではなく、
落ち着いた雰囲気が漂います。
はしゃぎすぎず
大人のわきまえができている、
そんなイメージがあり、
この点についてもこの演奏は
「お洒落」に聴こえてくるのです。

「フランス」という
先入観がそうさせるのか、
それともそうした演奏姿勢が
実際にそれを形づくっているのか、
音づくりもフランスらしい
「お洒落」を感じてしまいます。
苦悩に満ちた表情ではなく、
明るい響きがあり、
表情も場面ごとに変化し、
とても豊かな味わいがあります。
やはり
「お洒落」さを感じてしまうのです。

1770 Beethoven

初期の第1番・第2番は、
作品の構造がよくわかる演奏であり、
この2曲の味わいを
十分に引き出しています
(最近のベートーヴェン演奏は
総じて1番2番の演奏が素晴らしい)。
第5番も重々しくならずに
曲の構造の美しさを
前面に押し出しています。
第9番も第1楽章第2楽章で、
はっとさせられるような音づくりが
いくつか見られ、
新しい気づきをもたらしてくれます。

私が特に気に入っているのは
第6番です。
ワルターの古典的名盤の存在感が
際立っている第6番ですが、
本盤は全く新しい演奏といえます。
こってりと分厚い濃厚な演奏でもなく、
初期の古楽器演奏のような
ゴツゴツとしたところもなく、
まろやかさを失わずに
明るく爽快な演奏を展開していきます。
田舎でもなく雑踏でもなく、
豊かな田園都市の風景が
脳裏に浮かんでくるような演奏です。
本盤の「お洒落」は、
第6番で頂点に達しているのです。

パリの夜景を写し込んだ
ジャケット写真もお洒落、
デジパック・ジャケットもお洒落、
すべてが「お洒落」な
ベートーヴェン交響曲全集なのです。

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2007年発売当初、通販サイトでは
簡単な紹介しかされておらず、
私は全く無視していたのですが、
あっという間に完売、
話題になったときには
入手不可能となっていました。
ジョン・ネルソンなる指揮者名も
聴いたことがなく、
演奏団体も無名であり、
サイトの紹介では
録音年すら明記されておらず、
第9番のソリストについても情報なし。
販売側で全く売る気がなくても、
海外の情報に通じている方には
その価値がわかっているという
好例でした。
幸いにも中古で入手、
愉しむことができています。

すべてがお洒落なベートーヴェン、
やはり、音盤は愉し、です。

〔追記〕
2019年に
アンドリス・ネルソンス指揮の
ウィーン・フィルによる
ベートーヴェン交響曲全集が登場し、
「ネルソンのベートーヴェン」というと
そちらをイメージする方の方が
多いのではないかと思われます。

大手レーベルから大々的に売り出された
そちらの方はまだ聴いていません。

(2023.5.3)

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