Amor oriental~東洋と西洋間の愛の物語

ヘンデルの夢見たオリエンタル

「DHM-BOX」第2集の1枚目は、
古学のイメージから大きくかけ離れた
盤となっています。
クラシック音楽が知らぬ前に
中東の民族音楽にすり替わり、
そうかと思えば再びクラシックへと
移り変わっているのですから。
何とヘンデルのオペラの抜粋に
トルコの音楽を差し挟んだという
キワモノです。

DHM-BOX2

BOX2 Disc1
Amor oriental
~東洋と西洋間の愛の物語

Amor oriental

ヘンデル:
 歌劇「アルチーナ」序曲
 歌を歌っている小鳥たち
 今や、ラッパが
  華やかな音で私を勝利へ誘う
 戦い
 待って!…駄目だ、惨い女よ!
 恐るべき鬼女たちよ
  (以上「リナルド」より)
 涙するために生まれ
 この胸に息のある限り
  (以上「ジュリアス・シーザー」より)
 風よ、旋風よ、
  この足にお前たちの翼をくれ
  (「リナルド」より)
 歌劇「リナルド」よりシンフォニア
アーメット・オズハン:
 Hak serleri hayreyler
民謡:
 カーヌーン・タクシーム
ヘンデル:
 オンブラ・マイ・フ(「セルセ」より)
 ああ、惨い人、私の涙が貴方に憐れみの
  情を惹き起こしますように!
  (「リナルド」より)
作者不詳:
 Guzel Asik
ヘンデル:
 歌劇「アルチーナ」よりシンフォニア
 貴方の顔には数多の優雅さが
  戯れています(「リナルド」より)
民謡:
 ケメンチェ
  (中近東のヴィオール属)による即興
ヘンデル:
 醜い奴め、と言おう
  (「ジュリアス・シーザー」より)
民謡:
 ウード(中近東のリュート属)による
  即興
ヘンデル:
 情をかけて下さらないのでしたら
  (「ジュリアス・シーザー」より)
民謡:
 中近東の打楽器による即興
ヘンデル:
 タンブリン(「アルチーナ」より)
 No, no ch’io non apprezzo
  (「アグリッピーナ」より)
作者不詳:
 Ilahis(イスラムの詩篇)

ファニータ・ラスカーロ(Sp)
フロリン・セサル・オウアトゥ(C-T)
ペーラ・アンサンブル
 (トルコ音楽アンサンブル)
アーメット・オズハン(歌)
ラルテ・デル・モンド(ピリオド楽器使用)
ヴェルナー・エールハルト(指揮)
録音:2010年

17・18世紀における、西欧人の
オスマン帝国に対する関心から生まれた
いわゆる「トルコ趣味」は、
当時の西ヨーロッパで広く流行し、
当然のこととしてクラシック音楽にも
それは反映されていました。
トルコ音楽とクラシックの
接点といえば、すぐ思い浮かぶのが
「トルコ行進曲」です。
モーツァルトの「ピアノソナタ第11番」や
ベートーヴェンの劇付随音楽
「アテネの廃墟」に登場します。
しかしそれ以前に、
ヘンデルはオリエンタルに憧れ、
自らの作品に、そのエッセンスを
取り入れていたのです。

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「トルコ行進曲」が
オスマン帝国の軍楽隊の音楽に
刺戟されて創られたように、
ここに取り上げられている
ヘンデルの曲は、「戦闘」に絡んだ歌劇
「アルチーナ」「リナルド」
「ジュリアス・シーザー」
「アグリッピーナ」「セルセ」から
採られています。
ヘンデルの作品群の中でも
「トルコ趣味」が
色濃く表れている部分を抜き出し、
演奏もそうしたオリエンタルな色彩を
強調しているように聴き取れます。
その途中に挟まれるトルコ音楽が
さほど違和感なく繋がっていて、
面白く聴くことができます。

1685 Handel

ヘンデル部分の演奏は
古楽器団体のラルテ・デル・モンド。
指揮のエールハルトが
設立した団体であり、
精緻で表現力のある演奏を
聴かせてくれます。
一方のトルコ音楽は、
民族楽器団体である
ペーラ・アンサンブルが担当、
エスニック感覚溢れる演奏を
披露しています。
もっとも、注目すべきは
歌手二人でしょうか。
ソプラノのファニータ・ラスカーロも
素敵な美声を響かせているのですが、
カウンター・テナーの
フロリン・セサル・オウアトゥが
秀逸です。
私はあまりカウンター・テナーが
好きではないのですが、
これは聴きやすく、
聴いていて音楽にしっかりと
浸ることができました。

演奏時間約80分。
一枚聴き通すと
十分な満腹感を感じることができます。
西洋と東洋のせめぎ合いの中で
こんなにも素晴らしい音楽が
生まれたのかと思い知らされました。
本盤はコンサートの
ライヴ録音となっています
(最後に拍手まで収録されている)。
こうした演奏こそ、
できれば映像を伴ったもので
鑑賞したいものです。
この魅力的な音を
紡ぎ出している楽器の姿や、
二つの団体の配置、歌手の表情など、
さぞかし素敵なものだったのだろうと
嘆息してしまいました。
やはり、音盤は愉し、です。

(2023.2.11)

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