その日のためにずっと応援したくなる一枚
以前、ベートーヴェンの
ヴァイオリン協奏曲の
お薦め音盤3枚を取り上げましたが、
そのうちの一枚が本盤でした。
演奏者はクララ=ジュミ・カン。
2010年の
第4回仙台国際音楽コンクールでの
ライヴ録音盤です。
可憐なジャケット写真に惹かれて
買ってしまったのですが、しっかりと
愛聴盤になってしまいました。
クララ=ジュミ・カン
第4回仙台国際音楽コンクール
ライヴ録音
メンデルスゾーン:
ヴァイオリン協奏曲ホ短調 op.64
ベートーヴェン:
ヴァイオリン協奏曲ニ長調 op.61
クララ=ジュミ・カン(vn)
仙台フィルハーモニー管弦楽団
パスカル・ヴェロ(指揮)
録音:2010年
この仙台国際音楽コンクールは、
予選からファイナルまでの
すべての段階で「協奏曲」を
課題曲にするという、
他のコンクールに見られない
特色を持っています。
2010年は予選がモーツァルト、
セミファイナルは
ロマン派から近代の協奏曲、
ファイナルはベートーヴェンの
協奏曲のみが課題でした。
その2010年の覇者がこの
クララ=ジュミ・カンだったのです。
本盤はその
セミファイナル(メンデルスゾーン)と
ファイナル(ベートーヴェン)の
ライヴ録音であり、
コンクールの緊張と熱狂が
ひしひしと伝わってきます。
メンデルスゾーンの
ヴァイオリン協奏曲の音盤は
世の中に星の数ほどあり、
特に若い女性演奏家のデビュー盤などに
かなり見られるはずです。
ともすれば甘美な旋律を
ことさら強調しすぎて
甘ったるい演奏になってしまったり、
わざとらしい表現の
連続になったりした例も
散見されるのですが、
本盤は決して
そのようなことはありません。
きわめて正統派であり、
丁寧に音楽に近づこうとしている姿勢に
好感が持てます。
ベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲も
立派です。
以前紹介したように、
コパチンスカヤや
バティアシュヴィリなどの
個性的な演奏が目立つようになった
昨今ですが、ここでも彼女の演奏は
正統的な解釈であり、
奇をてらうところが微塵もありません。
かといって往年の巨匠のような
重厚なものでもなく、
若々しさが漲っています。
両曲とも特に変わったことを
してはいないのですが、
なぜか引きつけられ、
また聴きたくなります。
解説には「1987年生まれ」とあるので、
このとき彼女は
まだ20代前半だったはずです。
若さの漲る彼女の演奏には、
「花」ではなく「新緑」のような鮮烈さと、
不純物の混じらない清冽さを、
強く感じてしまいます。
さて、このクララ=ジュミ・カン、
韓国系ドイツ人で、
3歳からヴァイオリンとピアノを始め、
わずか4歳で
マンハイム高等音楽院に入学、
5歳でハンブルグ交響楽団と共演し、
デビューを果たすなど、
華々しい経歴の持ち主です。
なんとあのバレンボイムの家に
住み込んで指導を受けていた時期も
あったというのですから驚きです。
それを考えると、このコンクールでの
優勝もうなずけます。
彼女はこのコンクール以後も
いくつかのコンクールで
成果を上げています。
ところがなかなか目立った音盤が
出てくれません。
この盤の直後、優勝記念録音
(ベートーヴェンの
ヴァイオリン・ソナタ第7番などを
収録)が同じフォンテックから1枚、
さらにDECCAレーベルから
2枚の音盤がリリースされています。
それらもあまり注目されず、
そしてそれ以外は目立った盤が
出ていません。
これ見よがしに
技巧をひけらかすタイプではないので、
商業的には不利なのかも知れません。
しかし将来に向けて、
しっかりと実力を蓄え、
大きな花を咲かせて欲しいと
願っています。
本盤は、その日のために
ずっと応援したくなるような一枚です。
やはり、音盤は愉し、です。
〔関連記事:ベートーヴェン協奏曲〕
(2021.10.2)
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