
ジュリー・ロゼの歌に魅せられる
歌曲は私の苦手とするジャンルです。
所有する音盤も
数えるほどしかありません。
そうした分野こそストリーミングです。
最近の歌曲集アルバムを
手当たり次第に聴いてみたところ、
素敵な一枚に出会いました。
愛の神は告げた
~フランス近現代の歌曲集

ケクラン:
愛の神は告げた
~グラディスのための7つの歌
ロザンタール:
月の漁師
アブルケル:
シドニーには愛人が何人もいる
~浮気女
ブーランジェ:
彼女は草原を谷へと降りて行った
~空の晴れ間
ドビュッシー]:
ひそやかに~艶なる宴
亜麻色の髪の乙女~前奏曲集 第1巻
亜麻色の髪の乙女
ベイツ:鳥たちのための歌
Ⅰ 傷ついた鳩
Ⅱ 小さな青い鳩
Ⅲ 青い鳥
Ⅳ 籠の中のカナリヤ
アブルケル:
愛しています
ロザンタール:
私の苦しみを鎮めるために~夢想
アーン:
ナイス~9つの見出された歌曲
アブルケル:
エンドウ豆の上に寝たお姫さま
ドビュッシー:
ロマンス「得も言われぬ静けさ」
艶なる宴、ほらシルヴァンドルと
リカスとミルティルがいる
エネスコ:
あなたは私を悩ませる
~クレマン・マロの7つの詩
アーン:
夢見るベンチ
~当惑したナイチンゲール
ドビュッシー:
アリエルのロマンス
プーランク:
ハートの女王~くじ(短い藁)
ボニス:
夢(清らかな愛へと)~3つの歌
ジュリー・ロゼ(S)
スーザン・マノフ(p)
録音:2024年
このアルバム「愛の神は告げた」
(M’a dit Amour)は、
ジュリー・ロゼとスーザン・マノフが
「フランス歌曲における愛の多面性」を
テーマに、
時代も作風も異なる作曲家たちの作品を
並べて構成した、
きわめて物語性のある
「リサイタル・プログラム」です。
若いロゼの軽やかさ・色彩感と、
マノフの深い音楽知識が交差し、
愛の戯れ・無邪気さ・痛み・夢想・孤独・
優しさといった感情の揺らぎを、
一枚のアルバムとして
体験できるように設計されています。
それにしても見事なプログラムです。
ドビュッシーやプーランクのような
フランス歌曲の定番作曲家だけでなく、
アブルケル、ベイツ、ロザンタール、
ボニスなど、
録音の少ない作曲家の作品も
積極的に取り上げている点が特徴です。
これらがまた素敵な音楽を
聴かせてくれます。
「知られざる宝石」を見つけたような
気持ちになりました。
そしてアルバムは単に作曲家を並べた
アンソロジーではなく、
曲ごとに異なる「愛のキャラクター」が
立ち上がるように
配置されているのです。
アルバムの表題ともなっている
第1曲のケクラン「M’a dit Amour」は、
愛の神が囁くような
神秘的な始まりとなっています。
それを引き継いで
第2曲のロザンタール「月の猟師」は、
夢想的で淡い恋を紡いでいきます。
そして第3曲、12曲、15曲の
アブルケルの歌曲群は、
軽やかでユーモラスな雰囲気が
若い女性の春めいた恋を
歌い上げています。
第4曲のブーランジェでは、
若い恋の純粋さと儚さが
描かれていきます。
6曲収められたドビュッシーは、
「象徴主義的な愛」が
語られているように感じます。
アルバム中盤に配置された
ベイツの4曲からなる連作歌曲
「鳥たちの歌」は、
それぞれ異なった表情で
繊細な愛を語り聞かせています。
このように愛の感情を
「連作短編集」のように
並べた構造になっているのです。
注目すべきは
イザベル・アブルケルでしょうか。
収録された中ではもっとも近年の
作曲家です
(1938年生まれ、現在も活躍中)。
調べてみるとアブルケルは、
若い頃から映画・演劇の音楽を手がけ、
1970年代後半からは声楽作品に
ほぼ専念するようになったようです。
代表的な活動領域としては、
オペラ、それも特に子ども向けのもの、
そして歌曲、語りと音楽のための作品、
さらには学校や合唱団向けの
教育的な声楽作品となっていました。
本アルバムに収録された作品からも
感じられるように、
明るさ・軽妙さ・わかりやすさというのが
持ち味なのでしょう。
この、軽やかでウィットに富んだ
アブルケルの歌曲は、
本アルバムにおける「スパイス」として
機能しています。
ロゼの透明で軽い声は、
「アブルケルの語りのリズム
+軽妙な旋律」と非常に相性がよく、
アルバムの中でも
ひときわ「風通しの良い瞬間」を
つくっているのです。
面白いのは、全22曲のうち、
ピアノ独奏曲が
2曲配置されていることです
(第6曲:亜麻色の髪の乙女、
第19曲:夢見るベンチ)。
こうした「歌曲集」アルバムは、
歌がメインであり、
ピアノ伴奏が前面に出ることは
ほとんどありません。
この2曲は単なる「息抜き」などではなく、
声の物語の中に置かれた
「無言の章」と捉えるべきでしょう。
特に、第6曲にピアノ独奏の
「亜麻色の髪の乙女~前奏曲集 第1巻」、
第7曲「麻色の髪の乙女」と
連続させているのが絶妙です。
ピアノ版の前奏曲で
言葉のない純粋なイメージを語り、
歌曲版で恋の憧れや儚さを
言葉で伝えるという、
音と声による「二重露光」のような効果を
もたらしているのです。
さて、今回の
「近現代フランス歌曲」という選曲は、
ジュリー・ロゼのこれまでの録音傾向
(バロック中心)から見ると、
大きな方向転換となっています。
どういった事情があったのかは
わかりませんが、ロゼの新しい一面が
切り拓かれたように感じられます。
ロゼの声は透明であり軽やか、
ヴィブラートが細く、
線が美しいという特徴があります。
これはある意味、
ドビュッシーやアーン、
アブルケルのような「語りの音楽」に
理想的な声であるといえます。
バロックの技巧にも
適しているのですが、
むしろ近現代でこそ
最大限に生きるのかも知れません。

何はともあれ、
素敵な音楽にであうことができました。
ストリーミング様々です。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2026.4.7)
〔ジュリー・ロゼ参加の音盤〕

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