モーツァルトとファジル・サイ、新旧天才の共演

「死」と「生」が輪廻する「レクイエム」

モーツァルトのレクイエムが
リリースされるたびに「聴きたい」という
衝動が抑えられません。
でもいちいち買っていれば
CDの棚は「モツ・レク」だらけに
なってしまいます。
だからストリーミング。
いい時代になりました。
ここ一週間聴いているのは
ザンデルリング指揮の録音。
演奏も素敵ですが、余白に収められた
ファジル・サイの作品との
カップリングが魅力的です。

モーツァルト「レクイエム」

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モーツァルト:
 レクィエム ニ短調 K.626
サイ:
 モーツァルトとメヴラーナ Op.110

ファトマ・サイード(S)
マリアンヌ・クレバッサ(Ms)
ペネ・パティ(T)
アレクサンドロス・スタヴラカキス(Bs)
ベルリン放送合唱団
ブルジュ・カラダ(ネイ)
アイクット・ケシェレル(クドゥム)
ルツェルン交響楽団
ミヒャエル・ザンデルリング(指揮)
録音:2024年

モーツァルトのレクイエムといえば、
しばしば版の問題が取り上げられます。
本演奏は版の表記がないのですが、
聴く限り一般的な
ジュスマイヤー版と思われます。
ルツェルン交響楽団は
モダン楽器のオケなのですが、
ここではピリオド奏法を
積極的に取り入れ、
ほぼノン・ビブラート、
軽快なテンポで突き進んでいます。
特に最終曲「Cum sanctis tuis」の
駆け抜け方は爽快です。

Mozart & Say

それでいながら
じっくり聴かせるところでは
決して急ぐことなく、
旋律の美しさを強調しています。
とりわけ「Lacrymosa」は絶品です。
この部分は
YouTubeで公開されていますので、
映像を含めて味わうことができます。

Mozart – Requiem: Lacrimosa

最近はピリオド楽器の音色に
大きな魅力を感じるように
なってきたのですが、
現代楽器による鮮明な音も
やはり捨てがたいと思わせる演奏です。
ところどころで
音楽の起伏が大きくなり、
ドラマチックな展開で
迫ってくるのです。
ベームやバーンスタインの
重苦しいレクイエムに戻ろうとは
思いませんが(年に一回は
それでも聴いているのですが)、
このモダン楽器演奏は
聴き惚れてしまいます。

その「レクイエム」に続く
ファジル・サイの作品こそが
本録音の聴きどころとなります。
「モーツァルトとメヴラーナ Op.110」
という作品、
2楽章で二十数分の作品ですが、
魂に訴えてくるような
響きを持っています。
ソプラノ、テノール、合唱、
そしてオーケストラという、
「レクイエム」とほぼ同じ構成であり、
連続演奏を意識して
創られたものなのでしょう。

「メヴラーナ」は
13世紀のイスラム神秘主義詩人であり、
その教えの根幹には
「死は終わりではなく、
神(愛)との再会である」という
思想があります。
作曲者ファジル・サイは、
モーツァルトが死の直前に書いた
「レクイエム」が持つ
「死への恐怖と救済」という
テーマに対し、
東洋的な「生と死のサイクル」という
視点をぶつけているものと
考えられます。
つまり、精神的な意味で
「レクイエム」の対極、
あるいは補完となる存在として
構想されているのです。

第1楽章「Yine Gel」は、
モーツァルト「レクイエム」の旋律が
前半部のいたるところに現れ、
オマージュ作品としての色彩も
帯びています。
しかし後半部から
第2楽章「Yedi Ogut」にかけては、
トルコ風の旋律のような
民族的な音づくりがなされているのが
特徴です。
こちらもそれぞれ一部が
YouTubeで公開されています。

Mozart ve Mevlana – I. Yine Gel
Mozart ve Mevlana – II. Yedi Öğüt

ネイ、クドゥムと、聴き慣れない楽器が
奏者名とともに
クレジットされているのですが、
これらがそうした
民族色を創り上げています。
ネイ(ナイとも表記)は
トルコの葦笛の一種であり、
表に6つの穴、
裏に1つの穴が開いており、
熟練した奏者では約3オクターブを
演奏することができるようです。
擦音が印象的な
神秘的で美しい音色が特徴です。
このネイが随所で美しくももの悲しい
風情ある旋律を奏でているのです。
クドゥムは中央アジアで使われている
打楽器の一種です。
ティンパニを小型化したような外見で
二個一組となっています。
これが土俗的なリズムを
生み出しているのです。

全体的には
黙示録的な荘厳さと美しさがあり、
この曲だけを聴いても
十分に愉しむことができます。しかし
モーツァルトのレクイエムとともに
演奏されることにより、
「西洋」と「東洋」が接続されて
地球規模のスケール感を持つとともに、
「18世紀」と「21世紀」が結合して
雄大な時間の流れを
感じさせてくれるのです。
「ピリオド奏法」による
「モダン楽器」演奏という
新旧折衷スタイルが
それを鮮明に浮かび上がらせています。
まさに「死」と「生」が
輪廻しているかのような音楽が
創り上げられているのです。
これはなかなかに素敵な音楽体験です。

版やピリオド・モダンの選択によって
多様な展開をみせていた
モーツァルトのレクイエムですが、
余白に何を収めるかという聴かせ方も
近年増えてきています。
「モツ・レク」の楽しみ方が
さらに広がってきているのです。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2026.3.31)

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