「Colors of Bach」を聴く

ヘムシングによる「明るい」バッハ

バッハの音楽はどうしても
「難しい」というイメージがあります。
かつて政治評論家で音楽愛好家の
俵孝太郎氏が、その著書の中で
「役場のオジサンの文句を聴くような
趣がある」と述べていましたが、
似たような感覚をお持ちの方も
多いのではないでしょうか。
そんなバッハの印象を
吹き飛ばす録音を見つけました。

「カラーズ・オブ・バッハ」
エルドビョルク・ヘムシング

今日のオススメ!

J.S.バッハ:
 「パルティータ」変奏曲
  (無伴奏ヴァイオリンのための
   パルティータ第3番 第1曲
 「慈しみもてわれらを死なせ」の
  主題による変奏曲
 アヴェ・マリア変奏曲
  (平均律クラヴィーア曲集
   第1巻 第1番)
 「メヌエット ト長調」変奏曲
  (アンナ・マグダレーナ・バッハの
   音楽帳 第7番)
 「ヴァイオリン協奏曲
  第1番イ短調」変奏曲(第2楽章)
 メランコリー変奏曲
  (ヴァイオリンとオーボエのための
   協奏曲ト短調 第3楽章)
 「心と口と行いと命もて」変奏曲
 G線上のアリア変奏曲
 ブランデンブルグ協奏曲の再訪
  (ブランデンブルグ協奏曲
   第1番 第1曲)
 まぶねのかたわらに立ちて
 ゴルトベルク・アリア変奏曲
 「プレリュード ハ長調」変奏曲
  (8つの小前奏曲とフーガ 第1曲)
 「たしかにその時機だ」変奏曲
 「インヴェンション へ長調」変奏曲
  (インヴェンション第8番)
 オルガン・ソナタ変奏曲
  (オルガン・ソナタ第4番 第2楽章)
 「汝の行くべき道と」変奏曲
  (マタイ受難曲 第53曲)
 「哀れみ給え、我が神よ」変奏曲
  (マタイ受難曲 第47曲)
 「われ汝に呼ばわる、
  主イエス・キリストよ」変奏曲
 「協奏曲 ニ短調」変奏曲
  (協奏曲 BWV.974 第3楽章)
 ヴァイオリン協奏曲第2番
  ホ短調 BWV.1042
 コラール・アリア変奏曲
  (いざ、罪に抗すべし 第1曲)

エルドビョルク・ヘムシング(vn)
ノルウェー・ストリング・クインテット
 エリセ・ボートネス(vn)
 リヴ・ヒルデ・クロック=ブリン(vn)
 マリア・カールセン(vn)
 イダ・ブリン(va)
 ルイザ・タック(vc)
 ケネス・ライランド(b)
ティム・アルホフ(p)
ヤン・ペーター・クロプフェル(p)
マルティナス(アコーディオン)
録音:2024年

終盤に配置された
ヴァイオリン協奏曲第2番以外、すべて
現代の音楽家たちによる編曲版であり、
お馴染みのバッハの旋律が
色彩感豊かに再構成されているのです。
クロスオーバー的な
肌触りではあるものの、
エルドビョルク・ヘムシングの奏でる
ヴァイオリンは
安っぽさなど微塵も感じさせません。
普段は眉間に皺を寄せて
険しい表情をしているバッハが、
明るく微笑んで
雄弁に語りかけてくるような
音楽となっているのです。

1685 J.S.Bach

第3曲「アヴェ・マリア変奏曲」は、
平均律第1巻の「第1番プレリュード」を
アレンジしたものですが、
ピアノ曲で聴いている穏やかな旋律が、
心をときめかすような
パッションを伴って響き渡ります。
第6曲「メランコリー変奏曲」は、
中盤から加わる
アコーディオンによって、
旋律の持つ哀愁の感情が強調され、
まるでピアソラの曲を
聴いているような錯覚に陥ります。
第7曲「心と口と行いと命もて変奏曲」は、
原曲の厳かな雰囲気を崩すことなく、
心に染み入るような美しさを持った
弦楽合奏として
新たな素顔を見せてくれます。
第8曲「G線上のアリア変奏曲」も、
ともすれば葬送曲として使用される
「エア」が、弾むようなリズムで
聴き手を勇気づける音楽として
生まれ変わっています。
第12曲
「プレリュード ハ長調変奏曲」もまた、
オルガンで聴く原曲の存在を
忘れてしまうほどの明るく爽やかな
メロディが駆け抜けていきます。
第13曲「たしかにその時機だ変奏曲」も、
オルガンでは感じることのできない
疾走感が強調されていて、
まさに「時機を逃すまい」とする
情念すら感じさせます。
第19曲「協奏曲 ニ短調変奏曲」もまた
ヴァイオリンが快走を見せる
爽快感溢れる音楽となっています。

今日のオススメ!

そうして始まる次の第20曲の
ヴァイオリン協奏曲第2番は、
オーケストラの伴奏を
弦楽五重奏に振り替えただけで、
大きなアレンジはなされていない
(と思う)のですが、
それでいて新鮮に聴こえてきます。
バッハの音楽は
こんなにも色彩に満ちていたのかと
改めて思い知らされます。
それまでの曲とは異なり、
この曲については
三つの楽章すべてを演奏しています。
ここまでの19曲は、この曲の
前奏曲だったのではと思えるほどです。

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エルドビョルク・ヘムシングは、
ノルウェーの作曲家
ヤルマル・ボルグストレムの
ヴァイオリン協奏曲や
スウェーデンの作曲家
アンデシュ・ヒルボリの作品集などを
発表し、北欧音楽芸術の
伝道師的存在として注目されています。
ベートーヴェンやブラームスといった
「正典」のリリースは
現時点で見当たらないのですが、
これは「自分にしかできない表現を
優先している」と
とらえるべきなのでしょう。
ヘムシングは間違いなく、
クラシックの伝統を継承しながらも、
それを現代の文脈や自身のルーツで
再定義するクリエイティブな
ヴァイオリニストです。
ヘムシングによる
「新しいバッハ」を聴いてみませんか。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2026.3.24)

〔ヘムシングの音盤はいかがですか〕

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