アーンの仮面劇「アルフレッド」を聴く

古典派の知られざるオペラを愉しむ

オペラといえば
モーツァルト以降のものと
勝手に思い込んでいたのですが、
ヘンデルモンテヴェルディなどを
聴き及ぶにつれ、
バロック期や古典派のオペラを
味わえるようになりました。
「DHM-BOX」に収録されている
この一枚、
イギリスのアーンという作曲家の、
知られざるオペラを
堪能することができます。

DHM-BOX2

BOX2 Disc2
「アーン:アルフレッド」

BOX2 Disc2

トマス・アーン:
 仮面劇「アルフレッド」全曲

ジェニファー・スミス(Sp)
クリスティーネ・ブランディス(Sp)
デイヴィッド・ダニエルズ(C-T)
ジェミー・マクドゥーガル(T)
ニコラス・マギーガン(指揮)
フィルハーモニア・バロック管
フィルハーモニア合唱団
録音:1998年

そもそもアーンって誰?
初めて手にしたときの疑問です。
CD6000枚を所有するに至っても、
その名を聞いたことが
ありませんでした。
調べてみるとこの作曲家、
1710年生まれの1778年没、
イギリスの作曲家でした。
なんと英国の愛国歌である
「ルール・ブリタニア」の
作曲者なのでした。
現在でもBBCプロムスの最終夜で
毎年演奏される
この有名曲の作曲家だったとは!
で、その「ルール・ブリタニア」は何と、
この仮面劇の中の一曲なのです。

1710 Arne

「ルール・ブリタニア」の演奏機会は、
プロミスはもとより
英国中ではかなりの数に及ぶようです。
それでいながら、それが
収められているこのオペラ自体は、
あまり知られていないようであり、
音盤も本盤以外、見当たりません。
HPには「この作品の全曲録音は
ほかに無いため貴重です」との
宣伝文句がある以上、少なくとも
このBOXが発売された時点では
唯一の音盤だったということでしょう。

オペラは歌詞対訳がなくとも
おおよその粗筋がわかれば、
あとは歌を愉しめばよい、と、
いつも考えているのですが、
本作品の場合、
ネット検索しても歌詞対訳はおろか、
粗筋さえも
見つけることができませんでした。
何でも表題となっている
「アルフレッド」は、
10世紀のイギリスを
北方ヴァイキングの侵略から守った
護国の英雄「アルフレッド大王」の
ことなのだそうですので、
英雄譚であることは想像がつきます。
明るい曲調の曲が並んでいますので、
さぞかし勇猛果敢に戦った
アルフレッド王の
一大活劇であろうことが予想されます。

そして本作品は正確には
オペラではなく「仮面劇」。
「仮面劇」という曲のジャンルも
初めて聞きます。
こちらも調べてみると、
16世紀から17世紀初期のヨーロッパで
隆盛をきわめた、宮廷の祝祭の
出し物の形式なのだそうです。
仮面劇の公式のものはページェント
(pageant・野外劇・仮装行列)であり、
音楽と歌、演技、踊りを当然含み、
さらに飾られた舞台上で
演じられたようです。
あまり深刻な内容ではないのでしょう。

全編に歌の多いオペラですので、
どこを聴いてもそれなりに愉しめます。
歌を愉しめばいいような作品構成です。
私たち聴き手も、これは歌曲集であり、
歌を聴けばいいのだと
割り切って接することにより、
歌詞対訳のない不満は解消されます。

「ルール・ブリタニア」が合唱として
堂々と響き渡るエンディングは
圧巻です。
当時、舞台でこれを聴いた
英国民の聴衆たちは、
さぞかし気分が高揚したことでしょう。
ついつい「ルール・ブリタニア」のみ、
何度も繰り返して聴いてしまいます。

演奏は、英国の古楽アーティストである
マギーガンと
フィルハーモニア・バロック管。
虚飾を排した颯爽とした演奏が
魅力的です。
きびきびとした演奏で、80分弱を、
よどみなく進行させていきます。

こうして聴いてみると、
なぜこの素敵な作品が
これまで録音されてこなかったのか
不思議です。
また新しい音楽と
出会うことができました。
やはり、音盤は愉し、です。

〔「ルール・ブリタニア」収録音盤〕
「ルール・ブリタニア」は
以下の盤に収録されています。
これ1曲でも愉しめます。

〔トマス・アーンの音盤〕

録音の少ない作曲家であり、
探し出して聴いてみたいと思います。

(2023.7.30)

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