4人それぞれのアリアが魅力の1幕オペラ
オペラの改革者といわれるグルック。
「オルフェオとエウリディーチェ」
「パリーデとエレーナ」あたりが
有名なのですが、
この1幕の作品「中国人」も素敵です。
このオペラの作曲されたのは
1754年ですから、
まだ「改革前」の作品ですが、
聴きどころが豊富であり、
何度聴いても愉しめます。
単独で発売された盤も
持っているのですが、
「DHM-BOX」にも収録されています。
グルック
オペラ・セレナード「中国人」(全曲)
BOX1 Disc22
グルック「中国人」
グルック:
オペラ・セレナード「中国人」(全曲)
イサベラ・プールナール(S)
アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(Ms)
ギィ・ドゥ・メイ(T)
グロリア・バンディテッリ(Ms)
ルネ・ヤーコプス(指揮)
バーゼル・スコラ・カントールム
録音:1985年
〔登場人物〕
リジンガ
…高貴な若い中国人女性。
シヴェーネ
…若い中国人女性。リジンガの友達。
タンジャ
…若い中国人女性。リジンガの友達。
シランゴ
…若い中国人男性。シランゴの兄。
シヴェーネの恋人。
〔あらすじ〕
リジンガ、シヴェーネ、タンジャが
暇を持て余しているところに、
リジンガの兄・シランゴが
ヨーロッパ旅行から帰ってくる。
4人は芝居をして
気を紛らわすことにする。
リジンガ、シヴェーネ、タンジャの順で、
それぞれの選んだ劇の一役を演じる。
どのアリアが一番よかったか
話し合ったが、意見はまとまらない。
最後はみんなで踊りを踊り、
楽しく終わる。
タイトルの邦題が
本盤では「中国人」となっていますが、
「中国の娘たち」の訳もあります。
タイトルからは、
なにか中国の宮殿での
エキゾチックな物語のような
印象を受けますが、
筋書きはまったく違います。
登場人物は中国人である必要など
まったくありません。
作家・メタスタージョが
本作品の台本を書き上げた
経緯はわかりませんが、
おそらくは舞台と衣装に、
東洋の異国情緒を盛り込み、
豪華絢爛に仕上げるための
一つのアイディアに
過ぎないのではないかと推察されます。
一幕のオペラであり、
演奏時間はわずか1時間足らずです。
筋書きも他愛のないものであり、
登場人物もわずか4人。
そのうちの3人の女性が、
「演劇ごっこ」として次から次へと
アリアを披露していくのです。
しかもリジンガが重々しい悲劇、
シヴェーネはのどかな牧歌劇、
タンジャは喜劇を選択するので、
それぞれ異なる味わいが
愉しめるのです。
はじめに歌詞対訳を
まったく見ずに聴いたときは、
一体どのような物語が
展開しているのか、
想像できませんでした。
対訳を見て初めて納得した次第です。
聴き手は、
このアリアを愉しめばいいのです。
アリアは4曲挿入され、
1曲目はリジンガの鬼気迫る歌唱であり、
ここで雰囲気が一変します。
このオッターの歌唱が
ひときわ光っています。
2曲目はシランゴの
軽目のラブソングが続き、
場を和ませます。
3曲目のシヴェーネの歌も
内容的には愛の歌なのですが、
起伏に富んだ旋律が魅力です。
4曲目はタンジャの和やかな歌で
「演劇ごっこ」が締めくくられます。
こうしてアリアだけを聴いてみると、
どことなくモーツァルトの雰囲気が
感じられます。
もちろんグルックの方が先輩ですので、
モーツァルトがグルックの影響を
なにがしか受けていたのでしょう。
古典派の作品というと、
ハイドン、モーツァルト、
ベートーヴェンに
集約されたような形となり、
他の作曲家の姿が
見えにくくなっているのですが、
まだまだ魅力ある作曲家が
潜んでいるということでしょう。
やはり、音盤は愉し、です。
〔グルック「中国人」の音盤について〕
実は本盤以外、
次の音盤が見つかる程度です。
録音も実演での演奏機会も
少ないものと思われます。
(2023.5.13)
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