今、シューベルトを聴くならプレガルディエン
歌曲はあまり得意な分野ではないため、
単独での音盤はほとんど買いません。
ボックスに収録されているものを
聴くことになります。
「DHM-BOX」に収録されている本盤も
その一つで、
何度となく聴いてしまいました。
繰り返し聴くと、
なぜか好きになるのです。
このプレガルディエンの声に
魅了されてしまいました。
BOX2 Disc40
プレガルディエン&シュタイアー
シューベルト:美しき水車小屋の娘
シューベルト:
歌曲集「美しき水車小屋の娘」D.795
クリストフ・プレガルディエン(T)
アンドレアス・シュタイアー(fp)
録音:1991年
BOX2 Disc44
プレガルディエン&シュタイアー
詩人の恋~ハイネの詩による歌曲集
シューマン:
歌曲集「詩人の恋」 op.48
メンデルスゾーン:
旅の歌 op.34-6
朝の挨拶 op.47-2
夜ごとにぼくはきみを夢にみる
op.86-4
歌の翼に op.34-2
挨拶 op.19-5
新しい愛 op.19-4
シューベルト:
歌曲集「白鳥の歌」 D.957より
アトラス/彼女の肖像/漁師の娘/
都会/海辺で/影法師
クリストフ・プレガルディエン(T)
アンドレアス・シュタイアー(fp)
録音:1993年
プレガルディエンは、
現在活躍中のテノールの中では
もっとも実力のある
歌い手の一人であると思います。
当然シューベルトの歌曲集も
数多く録音しているのですが、
その最初期のものとなります。
このDHMレーベルに
シュタイアーと組んで
シューベルト歌曲集を他に2枚ほど、
さらには
チャレンジ・クラシック・レーベルに
「白鳥の歌」、
テルデックに「冬の旅」を
録音しています。
さらに近年はゲースと組んで「冬の旅」、
そして本曲「美しき水車小屋の娘」を
チャレンジ・クラシック・レーベルに
入れています。
このプレガルディエンの声は、
テノールでありながら、
やや暗い雰囲気の漂う、
陰影に富んだ響きがあり、
シューベルトの歌曲の世界を
完璧に表現しています。
「シューベルトの歌曲といえば
フィッシャー=ディースカウで
決まり」といった時代が
長く続きましたが、
このプレガルディエンの声こそ、
その次の世代を
代表するものと考えられます。
シューベルトの
「美しき水車小屋の娘」は、
全20曲が一つの物語を成しています。
一見、若者による青春の謳歌のような
雰囲気があるのですが、
失恋とそれによる自死という、
悲劇的な内容なのです。
粗筋としては、
「粉挽き職人の青年が、
水車小屋の親方の娘と出会い、
一度は恋が実るものの、
のちに失恋し、
自ら命を断つ」といった
ところでしょうか。
その物語の展開を考えたとき、
プレガルディエンの哀愁を帯びた声は、
まさにうってつけといえるのです。
一方の
「ハイネの詩による歌曲集」もまた、
メインのシューマン「詩人の恋」は
失恋を含む若者の歌の連作です。
メンデルスゾーンの歌曲6曲、そして
シューベルトの「白鳥の歌」からも
ハイネの詩による歌曲6曲が
収録されていますが、
こちらも陰鬱とした
雰囲気の漂うテキストです。
「青春の光と影」という
言葉がありますが、
「影」に焦点を当てた
作品の集まりですので、
こちらもプレガルディエンの声質が
生かされるものとなっているのです。
本盤をじっくり聴き通すと、
ヴィブラートを押さえた
プレガルディエンの
落ち着きのある歌唱が、
心にしみじみと響いてきます。
クラシック音楽は今や古楽器演奏が
主流となりつつあるのですが、
プレガルディエンもまた、
シューベルトの時代の歌唱法を
じっくりと研究しているものと
考えられます。
一昔前のシューベルト作品に対する
表現とはかなり異なります。
むしろこちらの方が聴きやすく、
長く聴き続けたいと思わせるような
不思議な引力を持っています。
シュタイアーのフォルテピアノは、
そのブレガルディエンの歌を
最大限に引き立てています。
やや枯れた音色が、
シューベルトの歌を
鮮明に浮かび上がらせているのです。
現代ピアノの明瞭な響きよりも、
フォルテピアノの方が
伴奏としてふさわしいのではないかと
思うほどです。
これまで
シューベルトの歌曲については、
フィッシャー=ディースカウの
全集BOX一つあれば
十分だろうと思っていました。
そうではありませんでした。
魅力あるリートの世界がそこに
広がっていたことに気づかされました。
これからいろいろな音盤を
探してみたいと思います。
やはり、音盤は愉し、です。
(2023.5.6)
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