プレトリウス「教会音楽集」を聴く

宝石のような美しさのコラール編曲

「vivarte-BOX」によって、
古楽の愉しさを知りました。
第1集第2集で計120枚もの音盤が
収録されているのですが、
このレーベルには
そのほかにも録音が残っています。
中古盤を探しているのですが、
本盤はそうした一枚です。
ウエルガス・アンサンブルによる
プレトリウス「教会音楽集」。
まだまだこんな素敵な音楽が
あったのです。

プレトリウス「教会音楽集」

プレトリウス「教会音楽集」

プレトリウス
 「ウト・レ・ミ・ファ・ソ・ラ」による
  マニフィカト
 われ、深き苦しみの淵より汝に叫べり
 昼が暗き夜を追い払う
 来たりて主を喜び歌わん
 マグダラのマリアと、
  もう一人のマリアが
 われ、我が罪を告白せり
 われ、主を愛せり

ウエルガス・アンサンブル
パウル・ファン・ネーヴェル(指揮)
録音:1991年  

ミヒャエル・プレトリウス
(1571-1621)は、ドイツの作曲家で、
音楽理論家でもあり、
オルガニストとしても活躍するなど、
多方面で活動していた人物のようです。
特に著述にも力を入れ、
全3巻からなる
「音楽大全(シンタグマ・ムシクム)」を
著したことで知られています。
それは当時の演奏習慣や楽器について
詳細な説明と図解がなされた、
いわば音楽百科事典と
いえるものなのです。
現代でもそれは、
音楽学・形態学研究や
古楽演奏の分野にとって、
重要な文献となっています。

1571 Praetorius

このプレトリウスが
作曲家として力点を置いていたのが、
宗教的声楽作品の分野です。
9巻からなる代表作
「シオンのミューズたち」には、
1000曲以上に及ぶコラール編曲が
収められているといいます。
本盤にはそうした膨大な作品の中から、
プレトリウスのほぼすべての創作期に
渡る作品が選ばれているのです。
7曲すべて、宝石のような美しさの
コラール編曲です。

今日のオススメ!

第1曲「ウト・レ・ミ・ファ・ソ・ラによる
マニフィカト」は、
作品集「シオンの賛美の歌」に
収められている
6声のマニフィカトです。
心を洗われるような合唱から始まる
美しい音楽です。
そのところどころに
管楽器が加わるのが特徴でしょうか。

第2曲「われ、
深き苦しみの淵より汝に叫べり」、
第3曲「昼が暗き夜を追い払う」は、
作品集「シオンのミューズたち」から
選ばれた2曲であり、
どちらも4声のコラール編曲です。
第2曲は、冒頭のリコーダー合奏や、
その後の静かなテンポで
進行する合唱が、
素朴な味わいを感じさせます。
第3曲は女声の美しさが
際立った音楽です。

第4~6曲は、
作品集「シオンのミューズたちによる
モテットとラテン語詩篇曲集」からの
3曲です。
第4曲「来たりて主を喜び歌わん」は、
「3つの3声合唱による
9声のモテット」とあるとおり、
3カ所に分けられた
3声合唱隊と楽器奏者が
交代で演奏するという形式です。
第5曲「マグダラのマリアと、
もう一人のマリアが」は、
4声で2部構成のモテットであり、
やや長めのリコーダー合奏のあとに、
3つのカントゥス声部と
テノールの4声が
煌めくような音楽を
紡ぎ上げていきます。

第7曲「われ、主を愛せり」は、
プレトリウスの個人作品集ではなく、
さまざまな作曲家による
詩篇第116番の作品を収めた
「陰府(よみ)の脅威と平安」に
入れられた一曲であり、
プレトリウス晩年の作品です。
おそらくは自らの死を予感して
創られたと思われる、
荘厳な曲調が印象的であり、
本盤の最後の締めくくりにふさわしい
音楽が展開されていきます。

今日のオススメ!

ネーヴェル指揮による
ウエルガス・アンサンブルの演奏は、
本盤においても「美しさの極み」とでも
いうべきものであり、
プレトリウスのコラールの魅力を
最大限に引き出すことに
成功しています。
こんな素敵な音盤が、
1992年にリリースされていたのに、
気づかずに30年も
過ごしてしまっていたなんて。
でも、ネット通販によって
中古盤の入手が格段に容易となった
現代は幸せです。
賃金はまったく上がらないものの、
それなりに幸せな
時代なのかも知れません。
これだけ音楽を愉しめるのですから。
やはり、音盤は愉し、です。

(2023.2.12)

【ウエルガス・アンサンブル】

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