煌びやかなシューマン、衝撃的なラギーゼ
「ジャケットに
綺麗なお姉さんが写っていたら、
とりあえず買ってしまえ」という
悪い癖が出た一枚です。
気品ある顔立ちで美しい方です。
名前はドゥダナ マズマニシヴィリ
(Dudana Mazmanishvili)。
シューマンの「子供の情景」の
何か新しい録音はないかと
探していた最中でしたので、
ちょうどよい買い物でした。
シューマン:
トッカータ Op.7
子供の情景 Op.15
謝肉祭 Op.9
ラギーゼ:
ロンド・トッカータ
ドゥダナ・マズマニシヴィリ(p)
録音:2016年、2017年
マズマニシヴィリのピアノは、
その美貌と同様、
華やかで煌びやかです。
1曲目のシューマン「トッカータ」から
鮮烈な音を響かせます。
軽やかなタッチで、スピーカーから
音が零れ落ちてくるようです。
このアルバムの序奏的な彩りであり、
期待を膨らませてくれます。
続くシューマン「子供の情景」は、
美しさが前面に押し出された演奏です。
やわらかいタッチで、
まさに眼前に「子供の情景」が
広がるような音づくりといえます。
特に気に入ったのが
第2曲から第6曲にかけての部分であり、
強弱が明確でメリハリのある演奏は、
まさに子どもたちの躍動感の表現に
成功しています。
そして第7曲「トロイメライ」の
なんと美しいこと。
遊び疲れて眠ってしまった子どもの
夢の中にいるような心地です。
素敵な「子供の情景」です。
この曲については
ホロヴィッツの名盤があるのですが、
そろそろ21世紀生まれの名盤が
現れてもいい頃です。
その一枚の候補として挙げられるべき
演奏だと感じます。
そしてシューマン「謝肉祭」。
こちらも素敵です。
高い技巧を要する部分も多い
この曲ですが、
難なく弾きこなしています。
全22曲がさまざまな表情を見せる
この曲の、一つ一つを丁寧に弾き分け、
その意味するものを
明確に表現しています。
私はこの曲を
よく理解できなかったのですが、
マズマニシヴィリのこの演奏を聴いて、
この曲に興味を持つことができました。
他の演奏家の録音を探して
聴き比べてみたいと思います。
なお、この「謝肉祭」、
第8曲と第9曲の間に
「Sphinxes スフィンクス」なる
謎の一曲が配置されています。
「演奏するには当たらない」と
楽譜に記載されていることから、
演奏されないことが多いようですが、
マズマニシヴィリは
この曲を演奏しています。
楽譜がどうなっているのか
わかりませんが、
1分30秒の収録時間の前半部分は
「無音」もしくは
「無音に近い状態」であり、その後、
わずかなフレーズが登場します。
曲として成り立っているかどうか
疑わしい音のつながりです。
「無音に近い状態」は、
ぼんやり聞いているとCDの再生が
終わったのだと勘違いしそうです。
マズマニシヴィリが
あえてこの曲を収録したのには
当然意味があるでしょうし、
彼女はこの曲をしっかりと理解した上で
演奏しているということの
証左でもあると考えます。
この曲についてもう少し
勉強してみたいと考えています。
この曲については、彼女の演奏が
YouTubeにアップされていましたので
紹介します。
ここまでのシューマンの3曲で
十分に満腹したところで、
デザートならぬ
とどめの一発が登場します。
ラギーゼなる作曲家の
「ロンド・トッカータ」。
これがまた一聴して超難曲。
これをマズマニシヴィリは
超快速で弾きこなしているのですから
驚きます。
どんな指使いをしているのか、
映像を見てみたいと思わせるほどです。
このマズマニシヴィリ、
単なる綺麗なお姉さんではありません。
恐ろしく高い技巧の
持ち主だったのです。
呆然としている間に、計1時間に及ぶ
プログラムが終了します。
なお、この
レヴァーズ・ラギーゼ(1921-1981)、
ジョージア(マズマニシヴィリと同郷)の
作曲家です。
名前から情報を検索しても、
本盤のものしか現れません。
かなりマニアックな存在なのかも
知れません。こちらも
さらに調べてみたいと思います。
トッカータで始まり
トッカータで終わる、そこに
シューマンの代表曲2曲を配置する、
なかなか粋なプログラムです。
発案はプロデューサーなのか
マズマニシヴィリ本人なのか
わかりませんが、
センスの良さがうかがえます。
このマズマニシヴィリですが、
名前から予想できるとおり、
ヴァイオリニストのバティアシヴィリや
ピアノのブニアティシヴィリと同じ、
ジョージア出身のピアニストです
(それにしてもジョージアは
美人音楽家が多い!)。
3歳からピアノを始め、
8歳でグルジア国立管弦楽団と
協奏曲を共演したというのですから、
経歴も立派です。
残念なことに、
音盤については本盤のほかは、
バッハ・リスト・ラフマニノフの作品を
集めたものが一つと、
「ルール・ピアノ・フェスティバル」なる
音楽祭を収録した中に
2曲だけ収められているもの一つが
あるだけです。
両者ともに廃盤状態であり、
入手が難しいようです。
公式HPがありましたので、
そちらのほうで
今後の彼女の演奏活動を
注目していきたいと考えています。
素敵なピアニストと
出会うことができました。
ジャケ買いは決して
低俗なことではありません。
新しい出会いにつながる
買い方なのです。
やはり、音盤は愉し、です。
(2021.9.5)
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