モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」

コロナ渦でのオペラ公演の新しい形

NHK-BSで放送していたオペラ公演の、
録り溜めしていたものを探したら、
モーツァルトの
「コジ・ファン・トゥッテ」が
出てきました。
比較的新しいもので、
昨年の11月に放送されたものです。
収録は2020年の夏。
コロナ渦でのオペラ公演でした。
例によって無観客かと思えば、
そうではありません。
しっかりと観客がいて
(それも結構密!)驚きました。

ザルツブルク音楽祭2020
モーツァルト:
 歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」

フィオルディリージ
…エルザ・ドライシヒ
ドラベッラ
…マリアンヌ・クレバッサ
グリエルモ
…アンドレ・シュエン
フェランド
…ボグダン・ヴォルコフ
デスピーナ
…レア・デゾンドレ
ドン・アルフォンソ
…ヨハネス・マルティン・クレンツレ
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ヨアナ・マルヴィッツ(指揮)
2020年7月28・30日・8月2日
ザルツブルク祝祭大劇場

本公演の最大の特徴は、
休息なしの短縮版で
上演されていることでしょう。
時間にして2時間20分。
ちょっと長めの映画と
いったところでしょうか。
休息時間に
会場のロビーが混雑することを
避ける策だったのでしょうが、
手頃な時間で
オペラを楽しめる試みであり、
画期的だと感じます。
作品に対する冒涜かも知れませんが、
オペラの時間の長さは、
忙しい現代人にとっては
一つのネックでした。
本作品であれば
単純なストーリーですので、
多少のカットがあったとしても
作品の質が大きく変わることは
ありません。

さて、演奏そのものですが、
指揮者・ヨアナ・マルヴィッツの
音楽作りが見事です。
モデル並みの長身・長腕から
しなやかに棒を振る姿は
絵になるとともに、
繰り出すテンポも
容姿同様にスタイリッシュで
躍動感に満ちています。

この指揮者のことを
まったく知りませんでしたが、
調べてみると現在
ニュルンベルグ歌劇場の
音楽監督なのだとか。
ザルツブルグ音楽祭始まって以来
初となる女性指揮者という
ことだそうです。
音楽の世界でも、
女性の進出が進んでいるのです。
素晴らしいことです。

演出は極めてシンプル。
一瞬リハーサル風景かと感じるほど
まったく舞台装置がありません
(白い壁に二つのドアのみ)。
配役の衣装も6人全員が
モノトーンの色合い(葬式の
物語のよう!)が基調であり、
グリエルモとフェランドの二人が
変装したとき(なんと顔は
まったく変装していない!)のみ、
衣装がカラフルになるだけです。
シンプルな演出は
最近のオペラの傾向でしょうが、
その方が出演者たちの実力が
はっきり出てくるので、
私はいいと感じています。

その配役ですが、
若手の歌手を起用しています。
こちらも私はよく知らないのですが、
演技も含め、真摯な歌唱であり、
好感が持てました。
なによりも女性3人が
役相応の若さと美貌、容姿であり、
観ていて作品に
しっかり入り込むことができました。
こんなことを書いては
いけないのでしょうが、
かつてはネームバリューを
重要視した結果、
「そうでない配役」となってしまった
演奏が多々ありました。
画像のないCDであれば
それは許せるのでしょうが、
現代の「観るオペラ」では、
それではまったく興ざめです。

特にフィオルディリージ役の
エルザ・ドライシヒが
素晴らしい出来映えです。
清楚で貞淑な風貌は、まさに役柄に
しっかりとはまっています。
そして切ない表情で
情感を込めながらも弱音で歌い上げる
第二幕のアリアは絶品です。
この部分だけを
繰り返して観てしまいました。

満足できるオペラです。
こうした作品を観ることができるなら、
NHKの受信料など安いものです。
なお、本公演の一部がYouTube
ザルツブルク音楽祭公式チャンネルで
公開されています。

(2021.3.28)

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