ヒラリー・ハーン「PARIS」を聴きました

パリへの思いが込められた素敵な一枚

ハーンの協奏曲録音を
待ち続けていました。
前回のモーツァルト5番と
ヴュータン4番との組み合わせは
2015年発売でしたので、
6年ぶりとなります。
予約していたものが昨日到着しました。
さっそく聴いてみました。

ヒラリー・ハーン「PARIS」

ショーソン:
 詩曲 Op.25
プロコフィエフ:
 ヴァイオリン協奏曲第1番ニ長調
ラウタヴァーラ:
 2つのセレナード
ヒラリー・ハーン(vn)
フランス放送フィル(演奏)
ミッコ・フランク(指揮)
2019年録音

タイトル「PARIS」の通り、
パリにちなんだ3曲が
選ばれているようです。
ショーソンはフランスの作曲家であり、
その晩年の代表曲である「詩曲」は
イザイの手によって
パリで初演されています。
プロコフィエフは
ロシアの作曲家ですが、
このヴァイオリン協奏曲第1番は
やはり1923年に
パリで初演された曲です。
ラウタヴァーラは
フィンランドの作曲家で、一見
パリには何の縁もなさそうなのですが、
指揮者ミッコ・フランクが
彼の親しい友人であったそうです。
パリで初演する条件で
ヴァイオリン協奏曲第2番の作曲を、
フランクは委嘱していたのですが、
それはラウタヴァーラの死去に伴い
実現しませんでした。
その後発見されたのが
収録されている2曲であり、
つまりパリ初演される予定の
第2協奏曲に代わるものという
位置づけなのでしょう。

1曲目の「詩曲」から
素晴らしい出来映えです。
この曲は他の作曲家の
ヴァイオリン協奏曲を収録した
余白に収録されていることが多く、
いくつもの盤を
所有してはいるのですが、
あまりじっくりとは
これまで聴いてきませんでした。
ハーンのヴァイオリンは
ここでも見事に歌っています。
こんな素敵な旋律だったことに
改めて気付きました。決して
奇を衒っているわけではないのですが、
一つ一つのフレーズが
明確に聴こえてきます。

2曲目のプロコフィエフですが、
この曲の表情の変化を、
ハーンのヴァイオリンは
実によく再現しています。
ところどころに現れる動的な部分こそ、
ハーンの技巧の高さが聴き取れます。

棚を確認してみましたが、
私はムター盤、チョン盤、
アン・アキコ・マイヤース盤、
バティアシュヴィリ盤
ツィンマーマン盤、シャハム盤しか
持ち合わせていませんでした。
それらの演奏と比べて
どんな特徴があるのか、
今後聴き比べていきたいと思います。

3曲目のラウタヴァーラ。
名曲であるショーソンも
プロコフィエフも素敵です。
でも、ラウタヴァーラのこの2曲が
さらに素晴らしいのです。
曲自体も美しい旋律なのですが、
ハーンのヴァイオリンは
それを感情豊かに歌い上げています。
作風が変遷してきた
ラウタヴァーラですが、
晩年のこの2曲は馴染みやすく、
今後注目されるべき音楽です。
プロコフィエフとは一転、
ハーンのヴァイオリンはこの曲の
ゆったりした部分に
一層の情感を込めて弾ききっています。

もしかしたらハーンにとっては、
このラウタヴァーラの2曲こそ
録音したかったものだったのかも
知れません。
この2曲を録音することが主目的であり、
CDとして
一つのまとまりをつけるために
ショーソンとプロコフィエフを
チョイスしたのではないかと
推察されるのです。

何はともあれ、
ハーンの協奏曲録音に
久しぶりに浸ることができました。
待っていた甲斐がありました。
大満足です。

ハーンに限らず、
最近の若手ヴァイオリン奏者は
室内楽のマイナーな作品
(現代音楽や古楽)を取り上げることに
集中している(それはそれで
大変重要なことであり、
必要なこと)のですが、
協奏曲の分野で既存の概念を
打ち破るような画期的な演奏
(かつてのベートーヴェンの
協奏曲録音
のような)を
披露してもらえないかと
願っている次第です。

(2021.3.7)

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