まさにピアノ協奏曲の皇帝的存在

クラシックCDこの曲ベスト3 File-022

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番変ホ長調Op.73「皇帝」

「皇帝」の名にふさわしく、
威風堂々としたピアノ協奏曲です。
有名曲であるが故に、
名だたるピアニストが
いくつもの録音を残しています。
そのため名盤なるものは
数知れず存在する、
まさにピアノ協奏曲の皇帝的存在です。
ネット上にも
この曲の名盤紹介はあまたあり、
私ごときが取り上げるのも
おこがましいとは承知の上、
最近よく聴く3枚を紹介します。

ポリーニ(ピアノ)
アバド指揮ベルリンフィル

この盤を外すわけにはいきません。
ポリーニ・アバド・
ベルリンフィルという、
ピアニスト、指揮者、オーケストラ
それぞれの「皇帝」を揃えた名演です。
90年代を代表する音楽家による
記念碑的名演と考えます。

ポリーニのピアノは煌びやかで
艶のある音色です。
かつ彫りの深い造形美に満ちた打鍵です。
アバドはそれを明快かつ正確な伴奏で
しっかりと支えています。
ベルリンフィルはそれに応え、
精緻なアンサンブルを
創り上げています。
まさに「皇帝」にふさわしい
響きの連続です。

レヴィン(フォルテピアノ)
ガーディナー指揮
オルケストル・レヴォリューショネル・
エ・ロマンティーク

速いテンポで
小気味よく音楽が進行します。
レヴィンのピアノよりも
ガーディナーの音楽作りの成果が
特徴となっている演奏です。
四半世紀以上前のガーディナーの
ベートーヴェン交響曲全集の衝撃が
覚めやらぬうちに登場した
ピアノ協奏曲全集の一枚です。
以来、ずっと聴いてきています。

古楽器演奏はもしかしたら
この曲にはふさわしくないかも
知れません。
しかしガーディナーの速いテンポと
躍動感あふれる音づくりは、
華美な鎧を脱ぎ捨てた、
若くスポーティな新しい「皇帝」像を
提示しています。

ギィ(ピアノ)
P.ジョルダン指揮
フランス放送フィルハーモニー

近年活躍めざましいピアニスト・
フレデリック・ギィによる、
こちらも若々しく瑞々しい「皇帝」です。
ピアノ・ソナタ全集で聴かれた
ギィの明確で力強いタッチは
ここでも効果的に現れています。
録音も鮮明で、
華やかなピアノが響き渡ります。
何度聴いても
聴き飽きることがありません。
素晴らしい演奏です。

比較的新しい録音という
認識がありましたが、
2007年録音ですので、
10年以上が経過していました。
先頃、ギィの弾き振りによる
新全集の録音が発表されています。
そちらはまだ入手していませんが、
この盤に取って代わる可能性は
高いものと期待しています。

取り上げたのは、あくまでも私が
ここ数年好んで聴いている3枚です。
この3枚以外にも
もちろん名盤が目白押しです。
アナログ時代から定評のある
グルダ&シュタイン盤、
レヴァインとラトルによる
2種のブレンデル盤、
レヴィン盤と甲乙つけがたい
フォルテピアノによるインマゼール盤、
ワイセンベルクによる
カラヤンとの東京ライヴ盤、
そして小澤との盤、
ギレリス&セル盤、
バレンボイムの弾き振りのEMI盤、
そして意外な名演マイケル・ロール盤
等々、多士済々の感があります。

今年はベートーヴェン・イヤー。
名演揃いの「皇帝」を、
十分に味わいましょう。

(2020.9.22)

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