聴いて満足、観て満足のニケの「魔笛」

フランス的色彩感溢れるモーツァルト

ゆっくり聴く時間がない以上、
オペラの音盤は
もう買わなくてもいいのでは。
そう思いつつも
ついつい買ってしまいました。
モーツァルトの「魔笛」です。
なんとCD2枚組に
DVDとBlu-rayの映像まで
ついているという豪華版。
観て聴いて愉しむことができました。

モーツァルト
歌劇「魔笛」(フランス語歌唱)

今日のオススメ!音盤

モーツァルト:
 歌劇「魔笛」K.620 全曲
  (フランス語歌唱)

パミーナ
…フローリー・ヴァリケット(S)
タミーノ
…マティアス・ヴィダル(T)
パパゲーノ
…マルク・スコフォニ(Br)
夜の女王
…リザ・モスタン(S)
ザラストロ
…トミスラフ・ラヴォワ(Bs)
パパゲーナ
…ポリーヌ・フェラッチ(S)
モノスタトス
…オリヴィエ・トロマンシュラーゲル(T)
夜の女王の侍女1
…シュザンヌ・ジェローム(S)
夜の女王の侍女2
…マリー・ゴートロ(Ms)
夜の女王の侍女3
…メロディ・リュヴィオ(A)
神託の声
…マチュー・ルクロアール(Br)
神官1
…マチュー・シャピュイ(T)
神官2
…ジャン=クリストフ・ラニエス(Br)
童子1
…エマ・ド・ラ・サル(S)
童子2
…タニーナ・ラウス(S)
童子3
…ガランス・ラポルト・デュリエ(S)
幼少のタミーノ
…デジレ・リュベク(B-S)
ル・コンセール・スピリチュエル
エルヴェ・ニケ(指揮)
録音:2020年

普段あまりオペラの言語を
気にしていない(というよりも
聞き取れない)のですが、
モーツァルトのオペラ作品での
使用言語は、作品の目的や初演地、
台本作家によって異なります。
「フィガロの結婚」や
「ドン・ジョヴァンニ」、
「コジ・ファン・トゥッテ」などの
オペラ・ブッファは
イタリア語なのですが、
この「魔笛」はドイツ語です。

1791年にウィーンで初演された
「魔笛」の台本は、
エマヌエル・シカネーダーによって
書かれいます。
彼は劇団の座長でもあり、
当時の一般市民にも親しまれるように、
ドイツ語での上演を選びました。
イタリア語が主流だった
宮廷オペラとは異なり、
ジングシュピールという形式で、
セリフと音楽が
交互に登場するスタイルです。

本盤の特徴の一つは、その言語が
フランス語であるということでしょう。
近年は原典重視の傾向が強まり、
自国語の翻訳版の上演は
珍しくなりましたが、
20世紀前半までは
聴衆の理解を得られやすくするために
自国語上演が主流だったのです。
フランスの新興クラシックレーベル
Chateau De Versailleによる、
ヴェルサイユ王室歌劇場での録音です。
自国の威信を賭けて
自国語による上演およびリリースに
踏み切ったというところでしょうか。
ドイツ語がフランス語に
切り替わったところで、
もともと聞き取れない以上、
聴感上の大きな変化はありません。
いくつか「字余り」的に思える箇所が
ある程度です。

歌手がなかなかに
素晴らしい演奏だと感じます。
特にパミーナ役の
フローリー・ヴァリケットが秀逸です。
若手か中堅(生年が不明)の
歌い手と思われますが、
透明感がありながらも
伸びやかな声質であり、
耳に心地よく響きます。
表現力も十分であり、
適切な感情表現によって、
複雑な情景を
わかりやすく伝えています。
近年、
古楽の分野で起用されることが多く、
今後の活躍の期待される
ソプラノだと感じました。

加えてパパゲーノ役の
マルク・スコフォニが素敵です。
フランス出身のバリトン歌手ですが、
フランス語のオペラだけでなく、
イタリア語作品でも活躍しています。
本作品においても堂々とした歌唱を
披露しています。
台詞部分でのおどけた雰囲気とは
対照的な表現がうまさを感じさせます。
その知的で柔軟な演技力表現力に
魅了されました。

録音も素晴らしく、
歌が鮮明にとらえられていて
申し分なしです。
ル・コンセール・スピリチュエルの
古楽器の音も自然な形で鳴り響きます。
何よりも歌と器楽演奏の
バランスが良く、
臨場感に優れています。
音楽は音が良くなければ楽しめません。
その点、本盤の録音は完璧です
(本盤に限らずこれまで私が聴いてきた
Chateau De Versailleの録音は
みな素晴らしい)。

と、ここまでがCDを聴いての感想です。
音だけ聴いても素敵ですが、
映像はもっと素敵です。

「魔笛」は、寓意や象徴に満ちた作品で、
フリーメイソン的な思想や啓蒙主義の
影響も色濃く反映されています。
これまで観た映像作品は、
そうした背景を意識してか
陰鬱な雰囲気が漂うものが
少なからずありました。
本映像はそうしたところがありません。
「夜」をイメージしてのことか、
背景や大道具こそ色彩が薄いのですが、
パミーナ、タミーノ、
パパゲーノ、パパゲーナなど
メインの役者の衣装はカラフルです。
これだけ色彩感に満ちた「魔笛」は
はじめてです。
フランス的な映像美が
展開していくのです。

さらにフランスのサーカス芸術団体
「Les Colporteurs」
(レ・コルポルトゥール)の
メンバーたちが、
玉乗りや綱渡り、逆立ちといった
曲芸的パフォーマンスを繰り広げ、
舞台に一層の
躍動感を加えているのです。
これが本映像の
一つの大きな魅力となっています。

全体としては幼い少年のタミーノが
夢で見た物語といった
趣向なのでしょう。
登場人物はすべて幻想的な衣装、
曲芸的パフォーマーが
妖精的な存在としてたびたび登場、
舞台装置も抽象的なイメージで
造形され、
まるで「不思議の国のアリス」といった
印象を受けます。
夜の女王とザラストロの対決の要素も
ほどよく中和され、
最後は両者を含め、登場人物すべてが
ベッドで寝ている幼タミーノを
祝福するようなエンディングで
爽やかに閉じられます。
近年は演出家の独りよがりのような
つまらない演出が少なくなく、
モニターを消して音だけを聴きたいと
思うような映像作品が
いくつもあります。
本Blu-rayは、演出のきわめて優れた
映像作品ということができます。

実はなんとこの2時間30分の映像が
YouTubeで公開されています
(私もこれを見て購入を決めました)。

Opéra Royal du Château de Versailles

CD2枚、DVD、Blu-rayが
分厚いブックレット
(英語すら読めないので
私にとっては意味がないが)とともに
重厚な装幀のボックスに収められ、
なんとも贅沢なつくりとなっていて、
うれしい限りです。
音楽も映像も配信が主流になりつつある
現代において、その流れに
逆行するような豪華パッケージ。
Chateau De Versaille、素敵すぎます。
聴いて満足、観て満足、触って満足の
いいことずくめの新しい時代の「魔笛」、
新しい時代の音盤映像盤セット。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2025.11.18)

〔関連記事:モーツァルト作品〕

「クラリネット五重奏曲」
「ドン・ジョヴァンニ」
「ピアノ協奏曲第21番」

〔モーツァルト「魔笛」はいかが〕

〔Chateau De Versailleはいかが〕

yunha JoによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

ガッツァニーガ「ドン・ジョヴァンニ」
ハイドン「8つの鍵盤楽器協奏曲集」
ベートーヴェン:後期弦楽四重奏曲集

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