エリザベス朝のヴァージナル音楽 中野振一郎

中野振一郎のヴァージナルとチェンバロで

バロック期の鍵盤楽器といえば
チェンバロを思い浮かべてしまいますが
その前身として
ヴァージナルという楽器があります。
弦が鍵盤に対して斜めまたは垂直に
張られているチェンバロに対し、
ヴァージナルは弦が鍵盤に対して
平行に張られているため、
サイズは小型であり、
一段鍵盤のみであるのが特徴です。
ヴァージナル音楽は、
この一枚で愉しめます。

「エリザベス朝のヴァージナル音楽」
 中野振一郎

今日のオススメ!音盤

ブル:
 イングリッシュ・トイ
モーリー:
 パヴァーヌとガリアルダ(イ調)
作者不詳:
 ナイチンゲール
ギボンズ:
 プレリュード
バード:
 パヴァーヌとガリアルダ(ト調)
ブル:
 王の狩
ピアソン:
 桜草
作者不詳:
 太鼓と笛
バード:
 ネヴェル夫人のグラウンド
ピアソン:
 落ち葉
バード:
 パヴァーヌとガリアルダ(ハ調)
ブル:
 グッドナイト
バード:
 戦闘前のマーチ、または
  オックスフォード伯爵のマーチ

中野振一郎(virginal&cemb)
録音:2010年

収録されている作曲家について
整理すると、以下の通りになります。
ウィリアム・バード(1540?-1623)
トーマス・モーリー(1557-1602)
ジョン・ブル(1562-1628)
マーティン・ピアソン(1571-1651)
オルランド・ギボンズ(1583-1625)
16世紀後半から17世紀初頭にかけて、
このヴァージナルがイギリスで流行し、
そのため傑作も数多く生まれました。
まさにイギリス音楽が
黄金期を迎えた時期なのです。

Elizabethan Virginal Music

ヴァージナル音楽の特徴の一つとして、
表題付き音楽であることが
挙げられます。
本盤収録曲を見ても、
「イングリッシュ・トイ」「落ち葉」
「グッド・ナイト」など、
難しいことはわからなくても
愉しめそうな雰囲気があります。

3曲目「ナイチンゲール」は、
いかにも夜鳴きウグイスが
きれいな声で歌っているような
イメージが感じられ、
ほのぼのとした気持ちにさせられます。
6曲目「王の狩」は、
王侯貴族の行進や狩りの様子、
猟犬の鳴き声などが
目に浮かぶようです。
8曲目「太鼓と笛」は、
刻むようなベース音が太鼓を、
高音の旋律が笛を表しているのでしょう
(鍵盤楽器で打楽器+吹奏楽器を
表現すること時代が
コミカルなのですが)。
素敵な小品が
次から次へと現れてきます。

音色はやや柔らかく、
家庭用楽器として親しまれた
ヴァージナルだからこそ
表現可能だったのでしょう。
肩の力を抜いて気軽に楽しむことが
できるチャーミングな音楽です。

面白いのは、中野振一郎が、
チェンバロとヴァージナルを使い分けて
これらを演奏していることです。
「プレリュード」
「パヴァーヌとガリアルダ(ト調)」
「王の狩」
「グッドナイト」
「戦闘前のマーチ…」が、
チェンバロ演奏です。
ヴァージナル演奏曲は、
ヴァージナル特有の
柔らかく繊細な音色が
曲の雰囲気と合致しているのでしょう。
チェンバロ演奏曲は、
音量を変化させることも含めて
多彩な表現力を必要としているものと
思われます。
ブックレットを見ても、使い分けの
基準については説明がありません。
そうしたあたりを
ぜひ知りたいものです。

なお、歴史的には
「ヴァージナル」という言葉が、
チェンバロを含む撥弦鍵盤楽器全体の
総称として使われていた時期もあり、
特にイギリスでは
17世紀半ばまでそのような用法が
一般的だったようです。
したがって本盤に収録された作品が
つくられた頃は、
ヴァージナルとチェンバロの区別は
曖昧だったようです。
その曲の性格によって、
よりよく表現できる方を、
中野は選択したのかもしれません。

ヴァージナルによる演奏を収録した
音盤は、決して多くはありません。
まずは本盤からヴァージナル音楽に
入門するのが最適と思われます。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2025.8.12)

〔ヴァージナル音楽の音盤〕

Karl EggerによるPixabayからの画像

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