アレクサンドル・タローのショパン・ワルツ集

その絶妙な芸術的センスには驚嘆するしかない

ショパンのワルツ集といえば、
リパッティの1950年のスタジオ録音盤が
伝説的名盤として君臨しています。
私も好きなのですが、
繰り返し聴くとなると
躊躇してしまいます。
何度も聴きたくなるのは、
このアレクサンドル・タローの演奏した
一枚です。

ショパン:ワルツ集
アレクサンドル・タロー

Chopin Valses

ショパン:ワルツ集(全19曲)
 第19番イ短調 遺作
 第7番嬰ハ短調 Op.64-2
 第4番ヘ長調
  Op.34-3「華麗なる円舞曲」
 第8番変イ長調 Op.64-3
 第5番変イ長調 Op.42「大円舞曲」
 第12番ヘ短調 Op.70-2
 第13番変ニ長調 Op.70-3
 第15番ホ長調 遺作
 第14番ホ短調 遺作
 第3番イ短調
  Op.34-2「華麗なる円舞曲」
 第10番ロ短調 Op.6-2
 第6番変ニ長調
  Op.64-1「子犬のワルツ」
 第11番変ト長調 Op.70-1
 第9番変イ長調 Op.69-1「告別」
 第16番変イ長調 遺作
 第2番変イ長調
  Op.34-1「華麗なる円舞曲」
 第18番変ホ長調 遺作「ソステヌート」
 第17番変ホ長調 遺作
 第1番変ホ長調
  Op.18「華麗なる大円舞曲」
モンポウ:
 ショパンの主題による変奏曲
アレクサンドル・タロー(p)
録音:2005年

ショパンのワルツ集において、
「曲順」は無視できない要素です。
他の作品同様、
一曲一曲の作曲時期はバラバラであり、
連作ではありません。
しかしながらそれらを
連続して演奏すべき作品と見なし、
自身でそれらを配列し、
「作品集」として演奏する
ピアニストもいます。
その始まりがリパッティでした。
そのリパッティが
14曲を並べたのに対し、
タローは19曲を配置しています。
それがまた、実に味わい深く
聴こえるから不思議です。
それぞれの曲の個性が
美しく響き合うように並べられ、
一つの物語を
創り上げているかのようです。
そしてタローの流麗な演奏が、
それをさらに確かなものにしています。
その絶妙な芸術的センスには、
驚嘆するしかありません。

今日のオススメ!

比較的ゆったりとしたテンポで弾ききり
かつ最後まで
弛緩する部分がありません。
技巧的な部分を強調することもなく、
どこまでも軽やかな身のこなしで
自然体が崩れることがありません。
冒頭の「第19番」は、
やや重めの曲なのですが、
その陰影を深く彫り込みながらも、
しなやかさを失わないタッチに
魅了されます。
名曲「子犬」も、
子犬が無邪気に駆け回るだけの
単純な表現に終わっていません。
生命感が漲るとともに、
豊かな自然のイメージ映像が
浮かんできます。
「第2番」は、華麗なだけではなく、
透明感あるピアノの音色に、
心が浄化されるような印象を受けます。

さりげなく最後に置かれた小品、
モンポウの
「ショパンの主題による変奏曲」もまた
素敵です
(購入当初はワルツ19曲だけだと
思い込んでいたため、
ショパンの旋律が現れては変化する
この曲に驚き、慌ててジャケットの
曲目を確認したほどです)。
19のワルツ集が一つの映画だとすれば、
この5分弱のモンポウの作品は、
そのエンド・ロールのような
役割を果たしています。
美しい余韻を感じさせながら、
気持ちよく聴き終えることが
できるようになっているのです。

1810 Chopin

リパッティは確かに
伝説的名盤なのでしょうが、
いつまでもその呪縛にとらわれていては
損というものです。
新しく生まれ来る名盤を、
積極的に愉しみたいものです。
だから、やはり、音盤は愉し、です。

(2024.3.3)

〔アレクサンドル・タローの音盤〕

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