ピリオド楽器のショパンも素敵です
最初はあまりいいと
思わなかった音盤が、
時間を置いて後から聴いてみたら
素晴らしかった。
そういうことが私の場合、
よくあります。
この盤もその一つであり、
一時、棚の奥に押しやられていました。
ところが最近聴き直したところ、
その音楽の瑞々しさに
心を動かされてしまいました。
ショパン:ピアノ協奏曲第1番・第2番
仲道郁代 / 有田正広
ショパン:
ピアノ協奏曲第1番ホ短調 op.11
ピアノ協奏曲第2番ヘ短調 op.21
仲道郁代(p)
クラシカル・プレイヤーズ東京
有田正広(指揮)
録音:2010年
初めて本盤に接したときには、
そのピアノの音色が
くすんだように聞こえ、
あまり好きにはなれませんでした。
私の耳がまだピリオド楽器の音に
慣れていなかった、つまり
モダン楽器による華やかなショパンを
聴き続けてきたせいなのでしょう。
古楽器演奏を聴き慣れてきた今聴くと、
この音盤の魅力が
とてもよく分かります。
ピアノはショパンの時代のものである
1841年のプレイエルが
使用されています。
モダン・ピアノとは異なり、息が短く、
音は儚く消えゆく印象を受けます。
しかしそこに
温かさが感じられるとともに、
モダン・ピアノでは表現しきれない
繊細さが感じられるのです。
仲道郁代はそうしたプレイエルの特徴を
最大限に生かし切り、
過度な感情表出を抑えながらも、
ショパンの音楽の機微を
的確に表現することに成功しています。
特に第1番の第2楽章など、
素朴で温かみのある美しさで
満たされています。
仲道の技巧も申し分がありません。
解説によると、このプレイエルは、
鍵盤を戻さないと次の打鍵ができない、
シングル・エスケープメントという
アクションを採用しているそうです。
つまり、
連続する素早いパッセージなどが
難しい構造であるということです。
聴く限り、仲道の演奏には
不安定な部分は見当たらず、
それどころか強弱を精密に制御するなど
十分に弾ききっていると感じられます。
オーケストラも
ピリオド楽器を使用しています。
弦楽器もビブラートのかからない奏法で
華麗なショパン演奏とは
一線を画しています。
編成も小ぶりであり、
室内楽的な音づくりを
目指しているのでしょう。
プレイエルとの儚い音と音の掛け合いは
新しい気づきをもたらしてくれます。
通常のオケではかき消される
パートの音が、ここではしっかりと
聴き取ることができるのです。
これも解説によるのですが、
使用楽譜は初版に近いものを
採用したとのことであり、
ところどころに
はっとさせられる部分が聴き取れます。
ただし、本盤の登場によって、
あまたあるショパンの
ピアノ・コンチェルトの存在が
薄くなるわけではないでしょう。
これまでどおり、
ツィメルマンやアルゲリッチ、
ルービンシュタイン、
そしてクン・ウー・パイク
(マニアックなピアニストですが、
私は密かに愛聴しています)もまた、
これまで同様に
楽しんでいくことになるはずです。
それらにこの盤が加わり、
聴く楽しみが広がるのです。
やはり、音盤は愉し、です。
〔仲道郁代のショパンについて〕
2曲のピアノ協奏曲については、
1990年にすでに録音していました。
そちらはモダンピアノ+モダンオケの
演奏です。
仲道郁代はデビュー当時から
ショパンを録音していましたが、
本盤録音以降、
プレイエルでの演奏が増えています。
「ワルツ集」などは、
プレイエルとスタインウェイでの
2種類の演奏を収録するなど、
話題になりました。
また、「永遠のショパン」も
プレイエルです
(附属のDVDはスタインウェイ)。
演奏会のライブ収録の
Blu-rayも発売されており、
そちらもプレイエルとスタインウェイを
弾き分けています。
〔ショパンのピリオド楽器演奏〕
2曲のピアノ協奏曲については、
本盤以外にも登場しています。
特にNIFCというレーベルが、意欲的に
取り組んでいて、注目しています。
いろいろな盤が登場することにより
選択の機会が増え、
愉しみが広がるのは
とてもいいことです。
(2024.2.18)
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