ピエール・アンタイの素敵なBOX
スカルラッティのソナタといえば、
スコット・ロスのCD34枚組全集を
思い浮かべてしまいます。
でも、34枚すべて聴き通す自信がなく、
かといって1枚に選曲された音盤も
味気なく、
どれにしようか迷っているうち
30年が過ぎていました。
ついに出ました。
定評のある演奏が、手頃な分量で。
ピエール・アンタイが
ミラーレ・レーベルに録音した
音盤6枚を収納したBOXです。
D.スカルラッティ:100のソナタ集
ピエール・アンタイ
Disc1
スカルラッティ:
ソナタ ニ長調 K.535
ソナタ イ短調 K.3
ソナタ イ短調 K.175
ソナタ イ短調 K.208
ソナタ イ短調 K.54
ソナタ ヘ短調 K.185
ソナタ 変ロ長調 K.248
ソナタ 変ロ長調 K.249
ソナタ 変ロ長調 K.310
ソナタ ニ長調 K.299
ソナタ ニ長調 K.484
ソナタ ホ長調 K.162
ソナタ ハ長調 K.199
ソナタ ニ長調 K.145
ソナタ ニ短調 K.141
ソナタ ホ短調 K.531
ソナタ ニ長調 K.177
ソナタ ニ長調 K.492
ピエール・アンタイ(cemb)
録音:2002年
なぜスコット・ロス34枚組を
聴き通す自信がなかったか?
実は音盤1枚にまとめられた抜粋盤
(19曲収録)を持っているのですが、
その19曲でさえ、どれも同じように
聞こえてしまったからです
(私の聴き取り能力に
問題があるのでしょうが)。
ところが、アンタイの演奏を聴いて、
スカルラッティに対する見方が
変わりました。この音盤では、
一曲一曲の表情が大きく異なるのです。
Disc2
スカルラッティ:
ソナタ ハ短調 K.58
ソナタ ヘ短調 K.239
ソナタ 変ホ長調 K.370
ソナタ 変ホ長調 K.371
ソナタ ホ長調 K.135
ソナタ ホ長調 K.215
ソナタ ホ長調 K.216
ソナタ 嬰へ短調 K.25
ソナタ ロ長調 K.261
ソナタ ロ長調 K.262
ソナタ ホ短調 K.263
ソナタ ホ長調 K.264
ソナタ ト長調 K.314
ソナタ ト長調 K.259
ソナタ ト長調 K.260
ソナタ ハ短調 K.84
ピエール・アンタイ(cemb)
録音:2004年
この6枚の音盤を聴いていくと、
ところどころに激しい表現がみられ、
驚かされます。
これではチェンバロが
壊れてしまうのではないか?と
心配になるくらいの打鍵がみられます。
そうかと思うと、じっくりゆったりと
聴かせる曲もあるのです。
曲の構造がそうなっている、
というのではなく、
演奏者アンタイの研究の成果を
反映させた、
意図的なものと考えられます。
Disc3
スカルラッティ:
ソナタ ニ短調 K.213
ソナタ ニ長調 K.214
ソナタ ロ短調 K.227
ソナタ ニ長調 K.511
ソナタ ト短調 K.8
ソナタ ハ短調 K.56
ソナタ ハ短調 K.526
ソナタ ヘ長調 K.468
ソナタ ヘ長調 K.525
ソナタ ヘ短調 K.466
ソナタ ヘ長調 K.366
ソナタ ヘ長調 K.276
ソナタ ヘ長調 K.151
ソナタ ニ短調 K.517
ソナタ ロ短調 K.27
ソナタ ト長調 K.146
ピエール・アンタイ(cemb)
録音:2005年
そもそもチェンバロは、
ピアノとは異なり、
表現技巧が限られています。
それなのにアンタイの演奏は、
尖っていたりまろやかだったり、
荒かったりきめ細やかだったり、
クリアだったり曇らせていたりと、
単なる演奏の緩急だけでない、
多様な表現に成功しているのです。
Disc4
スカルラッティ:
ソナタ イ長調 K.212
ソナタ ニ短調 K.247
ソナタ ト長調 K.144
ソナタ ハ長調 K.133
ソナタ ヘ短調 K.204a
ソナタ イ長調 K.279
ソナタ イ長調 K.533
ソナタ イ長調 K.405
ソナタ ホ短調 K.402
ソナタ ホ長調 K.403
ソナタ ホ長調 K.381
ソナタ イ長調 K.208
ソナタ イ長調 K.456
ソナタ イ長調 K.457
ソナタ ハ短調 K.302
ソナタ ト長調 K.201
ソナタ ニ長調 K.45
ピエール・アンタイ(cemb)
録音:2015年
「ソナタ」といっても、
1曲が長くても5分という
小品に過ぎません。
それでいて、こうして
アンタイの演奏を聴いていると、
まるでショパンの作品集を
聴いているかのような
音楽の豊かさを感じてしまいます。
Disc5
スカルラッティ:
ソナタ 変ロ長調 K.55
ソナタ 変ホ長調 K.474
ソナタ 変ホ長調 K.475
ソナタ 変ホ長調 K.252
ソナタ 変ホ長調 K.253
ソナタ ト長調 K.547
ソナタ ロ短調 K.87
ソナタ ホ長調 K.28
ソナタ イ長調 K.211
ソナタ ニ長調 K.401
ソナタ ニ長調 K.388
ソナタ ニ長調 K.277
ソナタ ト長調 K.124
ソナタ ハ長調 K.157
ソナタ ヘ短調 K.238
ソナタ ヘ長調 K.205
ピエール・アンタイ(cemb)
録音:2016年
スカルラッティは、
当時ヘンデルとチェンバロの腕前を
競い合った、いわば18世紀の
ヴィルトゥオーゾ・チェンバロ奏者
だったのです。
アンタイはスカルラッティのソナタの、
まさにそうした部分を
最大限に引き出し、
私たちの前に提示してくれます。
Disc6
スカルラッティ:
ソナタ ニ長調 K.119
ソナタ ト短調 K.179
ソナタ ト短調 K.234
ソナタ ハ長調 K.501
ソナタ ハ長調 K.502
ソナタ ヘ短調 K.69
ソナタ ト短調 K.43
ソナタ ハ長調 K.384
ソナタ ハ長調 K.487
ソナタ ハ長調 K.170
ソナタ ヘ長調 K.6
ソナタ 変ロ長調 K.550
ソナタ ニ短調 K.18
ソナタ 変ロ長調 K.544
ソナタ 変ロ長調 K.273
ソナタ ニ長調 K.161
ソナタ ト長調 K.477
ピエール・アンタイ(cemb)
録音:2018年
この音盤集を聴き終え、
「スカルラッティのソナタは
このBOXがあれば十分」という思いと、
「アンタイの演奏で残りの
450曲も聴いてみたい」という願い、
さらには「他のチェンバリストの演奏も
聴いてみたい」という意欲が、
頭の中に渦巻きます。
いい買い物をしました。
やはり、音盤は愉し、です。
〔ピエール・アンタイについて〕
奏者ピエール・アンタイは
1964年パリ生まれ。
長兄マルクはフルート奏者、
次兄ジェロームはヴィオール奏者と、
音楽兄弟なのです。
ヘレヴェッヘやミンコフスキといった
古楽を得意とする指揮者らと
共演するとともに、
自身のアンサンブル
「ル・コンセール・フランセ」を結成し、
音楽活動を展開しています。
魅力的な音盤がいくつもあります。
ソロの演奏では
以下のものが見当たります。
〔スカルラッティのソナタについて〕
全部で555曲以上あるといわれる
スカルラッティのソナタですが、
今のところ全曲録音を果たしたのは、
スコット・ロスの
CD34枚組全集だけです。
他は、音盤1枚に収録した
「選集」ばかりですが、
魅力的な盤はまだまだありそうです。
(2024.2.4)
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