まるで一篇の映画を見たような
「vivarte-BOX」「DHM-BOX」と
古楽器演奏ボックスを聴き進めて、
いくつもの素敵な作曲家と
出会うことができました。
その一人がボッケリーニです。
ビルスマの演奏による「チェロ協奏曲」
「スターバト・マーテル」で
その素晴らしさを味わいましたので、
それ以外の演奏家の音盤を
探していました。
見つけたのが本盤です。
ボッケリーニ
「チェロ協奏曲&スターバト・マーテル」
Disc1
ボッケリーニ:
チェロ協奏曲第6番ニ長調G.479
交響曲第6番ニ短調G.506「悪魔の家」
チェロ協奏曲第9番変ロ長調G.482
弦楽五重奏曲ハ長調op.30-6 G.324
「マドリードの通りの夜の音楽」
Disc2
ボッケリーニ:
スターバト・マーテルG.532
チェロ・ソナタ第2番ハ短調G.2
オフェリー・ガイヤール(vc&指揮)
サンドリーヌ・ピオー(S)
フランチェスコ・コルティ(cemb)
プルチネッラ
録音:2018年
Disc1は、
聴く者の気分を高揚させるような、
明るく軽快な曲が並んでいます。
厖大なボッケリーニの作品群から
よくぞこれだけの素敵な曲を
集めてきたものです。
すべての楽曲が楽しく響き渡ります。
一般にチェロ主体の曲というのは、
その音色からか、
どこか落ち着いていて、
しみじみとした雰囲気の曲が
多いように感じます
(単なる先入観かも知れませんが)。
本盤に取り上げられた
ボッケリーニの曲は、
チェロを主体としながらも、
その明るさを前面に押し出して
創り上げられたような作品4曲が
並んでいるのです。
その4曲で、
チェロが楽しげに歌っています。
ガイヤールのチェロに
魅了されてしまいます。
優雅で気品に満ちた
ガイヤールのバロック・チェロの音色は、
このボッケリーニの音楽と
相性がいいのでしょう、
曲の魅力を十全に引き出すことに
成功しています。
彼女の手兵アンサンブルである
プルチネッラも、
見事な演奏を繰り広げます。
愉悦感に満ちた1時間を
過ごすことができます。
ところが、Disc2になると
その雰囲気が大きく変わります。
「スターバト・マーテル」です。
弦楽五重奏とソプラノという
独特の構成を持つこの曲は、
紛れもなくボッケリーニの
傑作といっていいものです。
vivarte-BOXに収録されていた
ラルキブデッリとインヴェルニッツィの
盤では、
弦楽五重奏にソプラノが
入り込んだような、
弦楽五重奏主体の演奏に感じましたが、
こちらはソプラノに
弦楽五重奏が寄り添い、
ソプラノを引き立たせているような
表現となっています。
サンドリーヌ・ピオーのソプラノは
清楚であるとともに
格調の高さを感じさせ、
この曲の雰囲気を
一層清浄なものにしています。
聖母マリアの悲しみを
しみじみと描出しています。
インベルニッツィ盤、
オリヴェラス盤と聴いてきましたが、
このピオーの歌唱も素敵です。
「スターバト・マーテル」で
しっとりとなった雰囲気を
締めくくっているのが
チェロ・ソナタ第2番ハ短調です。
愁いに満ちた旋律を
ガイヤールがしっかりと弾ききって、
Disc2、そしてこのアルバムの幕を
閉じているのです。
こうして聴き終えてみると、
まるで一篇の映画を見たような
気分にさせられます。
いろいろな楽曲を
寄せ集めたのではなく、
一つの筋書きができ上がるように
配置されているのです。
ここにもガイヤールのセンスの良さが
現れています。
これまであまりガイヤールに
注目してこなかったのですが、
本盤でいっぺんに
魅了されてしまいました。
やはり、音盤は愉し、です。
※本盤のPR動画が
YouTubeで公開されています。
録音風景やガイヤールの
コメントなどが愉しめます。
〔本盤の曲目について〕
HMVなどのHPで確認すると、
Disc2の曲目にはもう一曲
「交響曲(序曲)ニ長調 G.521」が
置かれていることが
記されているのですが、
私が入手した盤には
収録されていません。
Amazon Musicで確認すると、
確かにG.521が入っていて、
聴くことができるのです。
やや損したような気が
しないでもないのですが、
G.521は軽快な曲調であり、
Disc2の末尾にあると、
せっかくしっとり終わった雰囲気が
壊れてしまいかねないので、
やはり無い方がいいのかも知れません。
〔関連記事:ボッケリーニの音楽〕
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