「筑後川」、いやそれよりも「岬の墓」
日本の合唱作品が好きで、
CDもよく聴いています。
とくにこの團伊玖磨の「筑後川」。
終曲の「河口」は、
中学校の合唱コンクールでの
中学校3年生の定番大曲の感があり、
しっかりとした合唱団の演奏を
聴いてみたいと思い、
十数年前に購入したものです。
やはり何度聴いても素敵です。
「岬の墓/團伊玖磨作品集」
團伊玖磨:
混声合唱曲「岬の墓」
クロスロード・アカデミー・コーア
辻政行(指揮)
望月あさ子(S)
蓮沼律子(A)
黒尾友美子(p)
録音:1989年
混声合唱組曲「筑後川」
みなかみ
ダムにて
銀の魚
川の祭
河口
久留米音協合唱団
本間四郎(指揮)
川口雪子(Ms)
中嶋道成(T)
中島政裕(p)
録音:1981年
混声合唱組曲
朝の渚
海の旅人
夜の海
漂着
沖は紺青
久留米音協合唱団
本間四郎(指揮)
温吟子(S)
中嶋道成(T)
尾籠一夫(Bs)
畑井多恵子(p)
録音:1981年
「河口」。
いかにも大きな川の流れが
海に注ぎ込んでいるような、
スケールの壮大な曲です。
聴いていても気持ちが高揚してきます。
おそらく合唱団の一人として
歌うことができれば、
さぞかし気持ちいいのではないかと
思われる曲です。
そして、その「河口」だけでなく、
それに連なる4曲を含めた
組曲「筑後川」として
聴くことのできるのが、
本盤の魅力でしょう。
4曲には、「河口」の旋律の一部が
ところどころに現れ、
合唱組曲としての構成の素晴らしさを
聴き取ることができます。
しかし、何度も聴いているうちに
分かってきました。
本盤の肝は、「筑後川」ではなく、
冒頭に収録されている
「岬の墓」なのだということに。
組曲ではない単独の曲で
演奏時間12分という、
合唱曲においては他に類を見ない
長大な作品となっています。
その長さゆえ、アマチュア合唱団の
レパートリーにはなりにくく、
「河口」に比べて
一般的にはあまり知られないまま
だったのでしょう。
旋律も、そして堀江前衛の歌詞も、
決して馴染みやすいものでは
ありません。
それでいながら
その色彩感の豊かなこと。
心を無にして聴き入れば、
岬に立ち、見渡す限りの広い海原が、
鮮やかに眼前に
浮かび上がってくるかのようです。
一つ一つの詩に深い意味が込められ、
音楽は細かな場面展開を繰り返し、
美しさが紡ぎ出されていくのです。
そして「筑後川」のような
劇的な盛り上がりこそないものの、
至るところに力強さを感じさせる
フレーズが盛り込まれ、
大海に乗り出していく船に憧れる
気持ちが迸っているかのようです。
この音盤の演奏とは異なるのですが、
京都エコーという合唱団の演奏が
YouTubeにアップされていましたので、
参考にしてください。
もちろん併録されている
「筑摩川」「海上の道」も素敵です。
この一枚を聴き通すと
十分な満足感を得ることができます。
日本の合唱曲の作品世界は広く深く、
世界に誇るべき文化だと思います。
一聴の価値ありです。
ぜひお聴き下さい。
やはり、音盤は愉し、です。
〔合唱の音盤について〕
日本の合唱のレベル(作品にしても
合唱団の演奏にしても)は
非常に高いものがあると思うのですが、
音盤のリリースは低調のようです。
ポップスをはじめとする
流行の音楽があまたある中で、
わざわざ合唱曲を音盤で聴こうと
考える人が少ないのは確かでしょう。
しかし、音盤制作の側に対しても
注文があります。
ジャケットデザインからして
まったく洗練されていないのです。
本盤も、いかにも
「音楽のお勉強用のCD」といった
趣であり、合唱好きの私でさえ、
良い印象を持つことができません。
手に取って聴いてみたいと
思わせるような、センスの良い
デザインにできないものでしょうか。
もっと多くの方が日本の合唱に
関心を持てるような工夫を、
メーカーには
考えていただきたいと思います。
(2023.2.23)
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