DHM-BOXに収められた素敵な2組
今年購入した「DHM-BOX」第1集第2集
計100枚の中で、
重複しているのがこの曲、
モンテヴェルディの
「聖母マリアの夕べの祈り」です。
DHMにはまだまだ
膨大な録音がある中で、
なぜこの曲を2組収録したのか?
2組を聴き比べてわかりました。
このユングヘーネル盤とベルニウス盤、
質感がまるで異なります。
BOX2 Disc31~32
モンテヴェルディ:
「聖母マリアの夕べの祈り」全曲
フリーダー・ベルニウス(指揮)
シュトゥットガルト室内合唱団
ムジカ・フィアタ・ケルン
録音:1989年
BOX2に収録されている
こちらの盤の方が録音は早いのです。
指揮者ベルニウスは、
「vivarte-BOX」にも、
シュッツやバッハの声楽曲や
グルックのオペラなど、
素晴らしい録音を収めていました。
本盤も見事な音楽を創り上げています。
モンテヴェルディは1567年生まれ。
バッハより100年以上前に
生まれたにもかかわらず、
当時としては超革新的な創作を行った
作曲家です。
特にこの曲は、
同じ時代の音楽家の作品に比べ、
かなり多様化した構造と規模を持ち、
様式的には大進化を遂げた
声楽作品なのです。
こうした曲の本質を明確に提示して
聴かせているのが
ベルニウス盤の特徴といえるでしょう。
ムジカ・フィアタ・ケルンの
アンサンブルは、
寸分も乱れることなく
淡々と進行しながらも、
素朴で味わいのある音色を
紡ぎ出しています。
シュトゥットガルト室内合唱団も
透明感のある合唱を響かせています。
オケも合唱団も、
80年代の演奏であるにもかかわらず、
この時代の古楽器演奏特有の
学究的な匂いのまったくしない、
洗練されたものとなっています。
もっと話題になっても不思議ではない
名盤なのですが、本盤登場の同じ年に
ガーディナーの指揮した同曲の盤が
目立ちすぎ、影に押しやられて
しまっていたのでしょう。
本盤発表から30年以上経った今、
こうして聴くと、本盤は決して
ガーディナー盤に劣ってなど
いないことを実感できます。
BOX1 Disc31~32
モンテヴェルディ:
「聖母マリアの夕べの祈り」全曲
コンラート・ユングヘーネル(指揮・lite)
カントゥス・ケルン
コンチェルト・パラティーノ
録音:1994年
一方、BOX1に
収録されたこちらの盤ですが、
指揮者ユングヘーネルは、
現代最高のリュート奏者の一人として
絶賛されています。
この盤の最大の特徴は
「1人1パート」です。
つまり合唱ではなく、
独唱を重ねることにより、
この複雑な構造を持つ音楽に、
はっきりとした輪郭を与えることに
成功しています。
絞られた声楽パートは、
壮麗さこそ失ったものの、
緊迫感が増し、
この曲の持つ劇的な要素を
より強調する結果を生み出しています。
この曲の新たな一面を提示した、
埋もれさせてはいけない
貴重な録音といえます。
なお、この2組の録音は、
その演奏形態の違いに加え、
曲の配置が若干異なります。
ベルニウス盤は、
「聖マリアによるソナタ」を
全曲の最後(Magnificatの後)に
配置することにより、
音楽全体を荘厳な余韻を持って
閉じるという効果をもたらしています。
一方、従来の配置を守った
ユングヘーネル盤は、
全体の調和がとれ、
モンテヴェルディの意図した
「静」と「動」の転換が
明瞭に示された形です。
どちらにも指揮者の一貫した考えが
表出しています。
古学に疎い私ですが、
モンテヴェルディのこの曲だけは
30年以上前から聴いていました。
ガーディナーの合唱ものがすきで、
1989年の新録音の方を
ずっと聴いてきました。
合唱のあまりの素晴らしさに、
もうこの一組だけで十分、
他の演奏はいらないと感じていました。
しかし、ガーディナー盤と同じ年に
ベルニウス盤、その5年後に
ユングヘーネル盤が登場し、
それに今まで注意を
払ってこなかったのは不覚でした。
ガーディナー盤とともに
愛聴していきたいと思います。
やはり、音盤は愉し、です。
(2022.11.26)
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