アメリカの街並みを颯爽と歩くディナースタイン
最近また一人、
お気に入りのピアニストを
見つけてしまいました。
シモーヌ・ディナースタインです。
3枚ほど出したバッハのアルバムが
好評で注目されていた
ピアニストなのですが、
バッハの良い聴き手ではない私は
スルーしていました。ところが
2015年にリリースされた本盤には
私の好きなラヴェルのピアノ協奏曲が
含まれていたため、
試しに買ってみたところ、
これがまた素敵なのです。
すぐさまファンになってしまいました。
「ブロードウェイ・ラファイエット」
シモーヌ・ディナースタイン
ラヴェル:
ピアノ協奏曲ト長調
ラッサー:
ピアノ協奏曲
「The Circle and the Child」
ガーシュウィン:
ラプソディ・イン・ブルー
シモーヌ・ディナースタイン(p)
ライプツィヒMDR交響楽団
クリスチャン・ヤルヴィ(指揮)
録音:2014年
チャーミングな
ラヴェルのピアノ協奏曲です。
第1楽章ではピアノもオケも
躍動感に満ちています。
第2楽章も重くなりすぎることなく
流麗な旋律を
非常に綺麗に弾ききっています。
第3楽章でも再びリズミカルな演奏が
展開していきます。
2曲目のラッサーのピアノ協奏曲は
世界初録音のようです。
このフィリップ・ラッサーは
アメリカ人の父とフランス人の母を持つ
アメリカ在住の作曲家であり、
ディナースタインとは
以前からの親友であるとのことでした。
このピアノ協奏曲自体が
ディナースタインのために
書かれたものなのでした。
バッハのコラールが
引用されているあたりは、
バッハを得意とするディナースタインに
ふさわしい曲といえます。
現代曲とはいえ、
難解さのない明るい聴きやすい曲に
仕上がっています。
ここでもディナースタインのピアノは
光を放っているかのような
輝かしい音色を聴かせます。
さらに締めくくりのガーシュウィン
「ラプソディ・イン・ブルー」も
おしゃれです。
この曲はピアノ協奏曲ではないため、
ピアノ独奏部は少ないのですが、
それでもディナースタインのピアノは
しっかりと存在感を示しています。
この曲の場合、
ピアノがあまり前面に出ない演奏も
多いのですが、
本盤ではピアノ協奏曲の一つとして
位置づけられているかのようです。
さて、
ラヴェルはフランス人作曲家であり、
1928年のアメリカでの演奏旅行の
大成功により名声を一気に高めたという
経緯を持っています。
ラッサーは前述の通り、
アメリカ人の父とフランス人の母を持つ
作曲家です。
ガーシュウィンはラヴェルと親交が
深かったアメリカ人作曲家であり、
また代表作に
「パリのアメリカ人」があります。
3人とも何らかの形で
アメリカとフランスのそれぞれに
繋がりを持つ作曲家たちです。
タイトルの
「ブロードウェイ・ラファイエット」は、
ネットの解説によると、
ニューヨーク地下鉄の
ブロードウェイ・ラファイエット駅の
ことだそうです。
おそらくジャケット写真も
その駅での撮影でしょう。
「ラフィエット」なる地名は、
アメリカ独立戦争で活躍した
フランスの「ラファイエット将軍」に
由来するもので、
アメリカとフランスとの
歴史的関連性を示す符号として
当盤のタイトルに用いられたようです。
ただそうしたフランスとアメリカとの
関連性とは別に、
このアルバムを一通り聴き通すと、
アメリカの街並みを颯爽と歩いている
ディナースタインの姿が
見えてくるかのような印象を受けます。
1曲目のラヴェルは、
目的地へ向かって
人通りの多い大通りや静かな裏通りを
自由気ままに闊歩している様子が、
2曲目のラッサーは、
目的地に到着し、その周辺を
興味深く散策している様子が、
そして3曲目のガーシュウィンは、
再び活気に満ちた大通りを歩き、
やがて雑踏に紛れていく様子が、
脳裏に浮かんできてしまうのです。
そしてジャケット写真は、
あたかもその一コマを切り取ったかの
ように見えてくるのです。
明確なコンセプトを持った
ピアノ協奏曲アルバムです。
そしてディナースタインの魅力を
十分に味わえる一枚です。
急いで彼女のバッハを聴かなければ。
(2022.1.30)
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