
「エアー」「マドリガル」「カンツォネッタ」「バレット」
先日、ジョン・ウィルビーの
マドリガル集を取り上げました。
その音盤と交互に聞いていたのが
このトーマス・モーリーの
「エアーとマドリガル集」です。
演奏は同じ
コンソート・オブ・ミュージック。
こちらもやはり精緻なポリフォニーに
心が癒やされます。
モーリー「エアーとマドリガル集」

モーリー:
起きよ、目覚めよ
泉のほとりで
いや、いや、ナイジェッラ
ひとりで歌いながら
愛する人とともに
いとしい人よ
とどまれ、心よ
火と稲妻
フィリスよ、喜んで死のう
水晶の泉のほとり
すべての場所で
おお哀しみよ、蕾の上にさえ
不在よ、わが抗議の声を聞け
深い悲しみ
眠れ、まどろんでいる目よ
聴け、アレルヤの歌声
コンソート・オブ・ミュージック
アントニー・ルーリー(指揮・リュート)
録音:1982年
本番に収録されている音楽は
「エアー」「マドリガル」
「カンツォネッタ」「バレット」と
四つに分けることができます。
それぞれがこのモーリーの
音楽的特徴に結び付いているのです。

一つめの「エアー」ですが、
旋律主導の音楽形式の名称です。
マドリガルが
複数の声部が対等に絡み合う
ポリフォニーであるのに対し、
エアーは一番上のパート、
いわゆる主旋律が明確であり、
聴き手に旋律が伝わりやすいのが
特徴です。
また、マドリガルは
歌詞の意味に合わせて音楽が刻々と
変化していくことが多いのですが、
エアーは同じメロディを繰り返しながら
2番・3番と歌詞を変えて歌う形式が
一般的です。
現代のポップスや歌謡曲の構造に
近い親しみやすさがあるのです。
エアーの多くは、
独唱(または重唱)にリュートなどの
楽器伴奏がつく形をとります。
モーリーの時代には、
このリュート伴奏で歌う
「リュート歌曲」が大流行したのです。
本音盤では「愛する人とともに」
「いとしい人よ」
「不在よ、わが抗議の声を聞け」
「眠れ、まどろんでいる目よ」の4曲が
その「エアー」に該当します。
この4曲が素敵です。
「愛する人とともに」
「睡れ、まどろんでいる目よ」は
エマ・カークビーの独唱に
聴き惚れてしまいます。
私の場合、最近は
このエマの歌を聴きたいがために
オワゾリール・レーベルの音盤を
買い集めているような
形になっています。
「いとしい人よ」
「不在よ、わが抗議の声を聞け」の
アンドリュー・キングのテノールにも
魅了されます。
歌詞を確認しなくても
歌の内容がよくわかります。
高い表現力によって
恋をする人間の感情が
的確に伝わってくるのです。
二つめの「マドリガル」ですが、
これこそがモーリーの音楽の
中心となります。
モーリーは当時、
イタリアで流行していた「マドリガル」を
英国の聴衆に紹介しました。
その際、複雑で重厚な対位法よりも、
踊るようなリズムや
耳に残る親しみやすいメロディといった
イタリア由来の軽快さを最優先した上で
その音楽的構成を
英語の響きに完璧に適合させたのです。
いわば「マドリガルの伝道師」としての
役割を果たしたのです。
先日のジョン・ウィルビーと比べて、
このモーリーのマドリガルは
そのイタリアの明るさこそが
特徴となっているのです。
収録曲では第2曲「泉のほとりで」に、
その特徴が凝縮されています。
「起きよ、目覚めよ」
「水晶の泉のほとり」
「すべての場所で」も
マドリガルに該当します。
三つめの「カンツォネッタ」ですが、
こちらはマドリガルと比べて
構造がシンプルで、
旋律が非常にリズミカルです。
マドリガルほど深刻な感情表現はせず、
快活で聴きやすい
「小品」という趣があります。
基本的には3〜6声ほどの
合唱のための音楽です。
楽器伴奏がなくても成立する
ポリフォニーの形を取っています。
簡単にいえば、
「マドリガル」と「エアー」の
中間のような形式です。
「とどまれ、心よ」「火と稲妻」
「おお哀しみよ、蕾の上にさえ」
「深い悲しみ」
「聴け、アレルヤの歌声」が
「カンツォネッタ」に該当します。
四つめの「バレット」ですが、
これもまたモーリーが
イタリアから輸入し、
イギリスで大流行させた
非常に特徴的な形式です。
一言でいえばその正体は
「踊るための歌」なのです。
拍子がはっきりしており、
聴いていると
足でリズムを刻みたくなるような
躍動感があります。
歌詞の節の終わりに、
意味のない音節である
「Fa-la-la(ファ・ラ・ラ)」というコーラスが
必ず入ります。
「いや、いや、ナイジェッラ」
「ひとりで歌いながら」
「フィリスよ、喜んで死のう」が
それに該当します。
なかでも「いや、いや、ナイジェッラ」は
愉快な一曲です。

そうした音楽の形式を意識せずとも
楽しく聴くことができます。
しかし分類することにより
理解が深まるのです。
理解が深まれば、
より楽しく聴くことができるのです。
軽快で心が弾む
モーリーの音楽を愉しみましょう。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2026.3.17)
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