ジョン・ウィルビー「マドリガル集」を聴く

シンプルな旋律と精緻なポリフォニー

手探りで進めている
中世ルネサンスの音楽史巡り。
最近聴いているのが
英国ルネサンス期の世俗曲です。
トマス・モーリーと
ジョン・ウィルビーのマドリガル集を
交互に何度か聴きました。
一般市民向けにつくられた音楽に
親しみを感じてしまいます。

ウィルビー:マドリガル集

今日のオススメ!音盤

ウィルビー
 マドリガル集第1巻より
  泣け、私の目よ
  女よ、私は薔薇の芽生えを見る
  私のクロリスが晴やかに語る
  さらば、優しいアマリリス
  死ね、不運な男よ
  女よ、お前の言葉は私を悩ます
  ああ、何と惨めな命
  女よ、私は薔薇の芽生えを見る
  私の惨めな命をいつ死に譲ろうか
  かつて私は
   喜びと甘美な痛みを歌った
  私の咽は爛れる
  恐るべき、見よ、私の悲しい最後を
  まだ若いと君はいい
  なぜお前は射つのか
 マドリガル集第2巻より
  愛らしい蜜蜂よ
  優しい人よ
  大いなる快楽に生き
  あわれな男よ
  嘆かずに、泣かずに
  訪れよ甘い夜
  色男コリュドーンよ
  そっと滴れ、我が目よ

コンソート・オブ・ミュージック
アントニー・ルーリー(指揮・リュート)
録音:1978年

マドリガルとは、
ルネサンス期を代表する
世俗声楽曲の形式であり、
特にイタリアを中心に発展、
さらにイギリスでも
独自の進化を遂げました。
基本的には無伴奏の
多声音楽(ポリフォニー)であり、
2~8声、特に3~6声のものが
多くなっています。
宗教的色合いが薄く、
恋愛をはじめとする人間の感情、
そして自然や季節の美しさを
素材としたものが基本となっています。
そうした詩の内容を
音楽的に表現することを特徴とした
声楽ジャンルといえるでしょう。

1574 Wilbye

本盤収録曲のジョン・ウィルビー
(John Wilbye)は、
1574年に英国に生まれ、
1638年に没した作曲家であり、
主にこのマドリガルを中心に
作曲を行いました。
1598年と1608年に
2冊のマドリガル曲集を出版し、
そこには64曲が収められています。
本盤はそこから22曲を選び、
演奏したものです。

なかなかに素敵な曲が並んでいます。
1曲目の「泣け、私の目よ」
(Weep, O mine eyes)から
魅了されてしまいます。
愁いに満ちたフレーズと旋律が、
透明な3声の男声の響きとともに
心に染み込んできます。
15曲目「愛らしい蜜蜂よ」
(Sweet suking Bees)も大好きです。
ソプラノ2、テノール2、バス1の
5声のマドリガルですが、
ここではソプラノのエマ・カークビーが
魅力的です。
私が最も好きで、
何度も繰り返してしまうのが
20曲目「訪れよ赤い夜」
(Draw on, sweet night)です。
こちらはエマ・カークビー単独の歌唱に
5つのヴィオールが伴奏しています。
旋律とソプラノ、それぞれの美しさに
酔わされてしまいます。

選ばれている22曲を聴く限り、
このウェルビーのマドリガルは、
モンテヴェルディなど
イタリアのマドリガルと比べて、
軽快でわかりやすい音楽であると
感じます。
メロディがはっきりしていて
印象に残りやすいのです。
より庶民的な音楽になっていると
いえるのではないでしょうか。

このジョン・ウィルビーの
マドリガル集全64曲の全曲録音盤を
探してみたのですが、見つかりません。
それどころか、
ウィルビー単独のマドリガル集も
本盤以外では
1958年録音のデラー・コンソート盤、
新しいものとしては
2014年録音のホリングワース指揮
イ・ファジョリーニ演奏盤しか
見つけることができませんでした。
このコンソート・オブ・ミュージック盤は
やはり貴重な一枚です。

こんなにも素敵なマドリガルを
作曲しているのに、
CDの世界ではまだまだマイナーです。
おそらくは作曲活動が
マドリガルにほぼ限定されていて、
リュート曲や器楽曲を残している
同時代のダウランドなどと比べて
演奏機会が限定的だったことが
災いしている可能性があります。
しかしこの22曲を聴く限り、
その音楽性はきわめて高いといえます。
そのシンプルな旋律でありながらも
精緻なポリフォニーは、
古楽を聴き慣れない方の耳にも
豊かに鳴り響くはずです。

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というわけで、
また一つ新しい魅力ある音楽に
出会うことができました。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2026.1.20)

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