
グレゴリオ聖歌とは異なる響き
以前、
「聖歌はグレゴリアン・チャント
だけではない」ということで、
「ビザンツ聖歌」を取り上げました。
今日は「アンブロジオ聖歌」です。
流通している音盤が
きわめて少ないのですが、
中古盤で手に入れることができました。
「公現祭のためのアンブロジオ聖歌」
スコラ・フンガリカ

作曲者不詳:
公現祭のためのミサ
公現祭のための晩課
スコラ・フンガリカ
ヤンカ・センドレイ(指揮)
ラースロー・ドブサイ(指揮)
録音:2008年
かなりマイナーな音盤のようです。
データを以下に示しておきます。
レーベル:Budapest Music Cente
カタログNo:BMCCD165
アンブロジオ聖歌
(Ambrosian chant)は、基本的には、
ラテン語のミサに付随した
単旋律の聖歌です。
イタリア・ミラノを中心に発展した
古い典礼音楽で、
4世紀のミラノ大司教・
聖アンブロシウスに由来します
(聖アンブロシウスが
作曲したかどうかは不明)。
グレゴリオ聖歌が、
8世紀頃にローマとフランク王国の
交流の中で成立していることを
踏まえると、
アンブロジオ聖歌は
グレゴリオ聖歌よりも古くから
存在していたことになります。
また、西洋音楽の基礎を形づくった
体系的な典礼音楽である
グレゴリオ聖歌に対し、
アンブロジオ聖歌は
ミラノという限定された地域で
伝承された
典礼音楽ということができるでしょう。
体系化されておらず、
そのためより自由な音楽形式を
獲得しているのです。
こうして本盤を聴いてみると、
典礼の流れに沿って、
ミラノ古来の旋律が静かに、
しかし豊かに響く
構成となっていることに
気づかされます。
本盤に収録されている音楽を聴く限り、
グレゴリオ聖歌よりも
はるかに音楽的に充実しています。
ところどころに豊かなポリフォニーの
響きが聴き取れるのです。
特に何曲かは「聖歌」とは思えないほどの
完成された音楽となっています。
HMVのHP上の「輸入元情報」によると、
「スコラ・フンガリカの
詳細な音楽学によって分析された
解釈に基づいた歌声」とありますので、
これは演奏団体の
スコラ・フンガリカによる
学術的復元のために用いられた、
古代的なポリフォニー風の響きを
再現するための
特殊な重唱法の結果と考えられます。
また、ポリフォニーの響きは、
「Franchino Gafurio:Kyrie」
というように、
「Franchino Gafurio」の
文言を冠された曲に聴き取れます。
これは何かの音楽用語もしくは
典礼用語かと思っていましたが、
どうも人名のようです。
イタリア・ルネサンス期の
音楽理論家・作曲家である
フランキーノ・ガフーリオ
(Franchino Gafurio)(1451–1522)で
あろうと思われます。
ガフーリオは
ミラノ楽派の中心的存在で、
ミラノ典礼(アンブロシア典礼)とも
深い関係を持っている人物ですので、
間違いなさそうです。
曲目を確認すると、
2曲目:Franchino Gafurio: Gloria
8曲目:Franchino Gafurio: Credo
10曲目:Franchino Gafurio: Sanctus
12曲目:Franchino Gafurio: Agnus
そして最終曲
Franchino Gafurio: Kyrie
となっているのです。
このように、ミサ通常文の部分に
「Gafurio」の名前が付いています。
このことから本盤収録の音楽は、
「アンブロジアン聖歌(固有文)
+ガフーリオ作曲の多声音楽(通常文)」
という構成になっているのです。
ミサの「通常文」
(Kyrie・Gloria・Credo・
Sanctus・Agnus)は、
ルネサンス期には多声音楽として
作曲されることが多かったようです。
この、
「アンブロジアン聖歌
+ガフーリオ作曲の多声音楽」
という形が、
「ミラノで実際に行われていた
典礼の姿」であり、
本盤はそれを再現したものと
考えられるのです。

その音楽形式の美しさを
引き立たせているのが
スコラ・フンガリカの演奏です。
スコラ・フンガリカの
透明で精緻な歌声が、
アンブロシアン聖歌の神秘性を
際立たせているのです。
これまでグレゴリオ聖歌や
ビザンツ聖歌を聴いてきましたが、
美しさという点では本盤の演奏が
最も優れています
(アンブロジオ聖歌が他の聖歌よりも
優れているということではなく)。

訳のわからないまま
聴き始めたのですが、
いろいろと調べてみると、
「ミラノの典礼文化」
「ルネサンスの作曲家とその音楽」
「中世の歌唱習慣」が、
一つの流れとしてつながっていることに
気づかされます。
そうした背景がわかってくると、
まるで音楽そのものが時空を超えて
私たちに語りかけてくるようにも
感じられるのです。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2026.1.6)
〔グレゴリオ聖歌・ビザンツ聖歌〕
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