グルック「パリーデとエレーナ」を聴く

コジェナーとグリットンの素敵な歌に浸る

最近繰り返し聞いている盤が
このグルックのオペラです。
メジャーとはいえない作品であり、
全曲盤は数が少なく、本盤は貴重です。
「○○○と△△△」という表題の
オペラの多くがそうであるように、
本作品もまた
トロイアの王子パリーデと
スパルタの王妃エレーナの
恋愛物語となっています。

グルック:
 歌劇「パリーデとエレーナ」全曲

今日のオススメ!音盤

グルック:
 歌劇「パリーデとエレーナ」Wq.39

マグダレーナ・コジェナー
…パリーデ(M)
スーザン・グリットン
…エレーナ(S)
キャロライン・サンプソン
…アモーレ(S)
ジリアン・ウェブスター
…プリエアモ(S)
ガブリエリ・コンソート&プレーヤーズ
ポール・マクリーシュ(指揮)
録音:2003年

1770年、
ウィーンで初演されたこのオペラ、
内容はギリシャ神話のトロイア戦争の
前日譚となります。
トロイアの王子パリーデは、
神々の審判で愛の女神ヴィーナスから
「世界一美しい女性」エレーナの愛を
約束されます。
そのスパルタの王妃エレーナは
すでにメネーラス王と
婚約していました。
パリーデはスパルタに赴き、
エレーナに愛を告白。
彼女は葛藤しながらも、
次第にパリーデに心を開いていきます。
愛の神アモーレが二人を助け、
エレーナはパリーデとともに
トロイアへ逃れる決意をするという
筋書きとなります(この逃避行が
後のトロイア戦争の引き金となる)。

1714 Gluck

この作品は、グルックの
「オペラ改革」の理念に基づき、
音楽がドラマに
奉仕する構造を持っているため、
アリア単体よりも場面全体の流れで
聴くべきなのでしょう。
しかし登場人物も限られ、
筋書きの大きな転換もなく、
淡々と進行していくため、
基本的には歌手たちの歌を愉しむという
聴き方になると思います。
タイトルロールの
コジェナーとグリットンの歌が
特に素晴らしく、
本盤はまさにこの二人の歌を
聴くためにあると言っても
言い過ぎではないはずです。

男性であるパリーデ、プリエアモを含め、
主要人物はすべて
女声で演奏されています。
当時の演奏習慣により、
パリーデはカストラート
(去勢された男性高音歌手)が歌うことを
前提に作曲されました。
カストラートが存在しない現代では、
メゾソプラノやカウンターテナー、
あるいは女性歌手によるズボン役
(trouser role)で代替されています。
私の場合、カウンターテナーは
歌手による好き嫌いが激しいため、
このメゾソプラノのコジェナーは
とても聴きやすく感じます。

特に第一幕のパリーデのアリア
「O del mio dolce ardor」
(おお、私の愛しい人よ)が秀逸です。
恋する相手への憧れと熱情を
静かに語るこのアリアは、単独で
演奏されることも多い有名曲です。
コジェナーが柔らかな歌声で
繊細な感情を見事に表現しています。
それ以外のアリアについても、
その抑制された情熱と
気品に溢れる歌唱が
耳に心地よく響きます。

エレーナ役のスーザン・グリットンも
素晴らしい歌唱を披露しています。
最も美しさを感じるのは
第二幕のエレーナのアリア
「Le belle immagini」
(美しい姿が)でしょうか。
パリーデを想うエレーナの切ない感情が
ひしひしと伝わってくる
歌唱となっています。
このグリットン、
大学では植物学を専攻していたという
変わり種。
どうやったら植物学から声楽へと
転進できるのか
そちらの方への興味はさておいて、
知性と感性の融合されたような歌声が
聴きどころといえるでしょう。

なお、このマクリーシュ盤の輸入盤の
ブックレットを見ると、
最終場面の第5幕第5場が
二つのヴァージョンで収録され、
CD2トラック19-25が
「revised version」(おそらく改訂版)、
トラック26-33が
「published version」
(おそらく1770年の初稿か?)
となっています。
異稿を収録している点でも
貴重な全曲盤といえます。

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本曲の全曲盤は、
このマクリーシュ盤以外は
マイナー・レーベルから
リリースされたものがある程度です。
多少値が張っても発売当時に
国内版を購入していればよかったと
後悔しています。
いや、やはり歌詞などわからなくても、
音楽そのものをそのまま受け止めれば
十分に楽しめます。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2025.11.15)

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〔グルックのオペラはいかが〕

Erika VargaによるPixabayからの画像

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