「バッハの一歩手前」にあった二つの個性的な音楽
「vivarte 60CD collection」に
収録されている鍵盤楽曲は、オルガンと
ハープシコードによるものです。
BOX-Ⅱには、
レオンハルトによるものがオルガン1枚、
ハープシコード2枚が収録されています。
本盤はそのうちの1枚で、
1616年生まれの二人の作曲家、
ヴェックマンとフローベルガーの作品が
取り上げられています。
ヴェックマン&フローベルガー:
チェンバロ作品集
グスタフ・レオンハルト
ヴェックマン:
組曲ロ短調
トッカータ ホ短調
トッカータ イ短調
組曲ニ短調
組曲ハ短調
カンツォン ハ長調
トッカータ ニ短調
フローベルガー:
ブランシュロシュ氏の
死に寄せる追悼曲
組曲ホ短調
カプリッチョ ハ長調
リチェルカーレ ニ短調
組曲イ長調
グスタフ・レオンハルト(cemb)
録音:1996年
1枚のディスクに二人の作曲家の作
品を収録したのですから、
そこに何らかのコンセプト
(単に同年生ということだけでなく)が
あるはずです。
この1616年生まれの二人、
どんな作曲家なのでしょうか。
本盤の前半に収録されている
マティアス・ヴェックマン
(1616-1674)は、テューリンゲンの
ニーダードルラ生まれです。
人生の前半をドレスデン、
後半はハンブルグで過ごします。
北ドイツで宮廷オルガニストとして
活動していた人物です。
国内に止まりながらも、
シュッツに師事し、さらには
スウェーリンクの門人たちから
影響を受け、
自らの音楽を磨き上げていくのです。
本盤のレオンハルトの演奏から受ける
ヴェックマンの印象は、
ドイツ的な構造美の原形を有した
音楽であるということです。
感情が表出したような
パッセージが散見されます。
一方、本盤の後半に収められている
ヨハン・ヤーコプ・フローベルガー
(1616-1667)は、南ドイツである
シュトゥットガルト生まれです。
ヴェックマンとは異なり、
外交官としてヨーロッパ各地を
転々としながら、音楽家としても
演奏活動を行っています。
コスモポリタンとして
欧州各地の音楽を吸収し、
自らの血肉としていったのです。
レオンハルトの演奏からは、
フローベルガーの音楽には
多様性をとり入れた結果としての
「やわらかさ」を感じます。
叙情的な要素が感じられるのです。
同年生まれとはいえ、
およそ生き方や音楽的経歴の異なる、
南北ドイツの代表選手的な二人です。
ところが何と、
二人は交流があったということです。
ドレスデンを訪問した
フローベルガーに対し、
ザクセン選帝侯は歓迎の意味で
ヴェックマンとの競演を促しました。
それをきっかけに、
豊富な才能を持った二人は親交を結び、
作品の交換や献呈といった
音楽的交流を深めていくのです。
おそらくはこの二つの音楽の流れの
合流した先に、大バッハの音楽が
位置しているのでしょう。
「バッハの一歩手前」にあった
二人の作曲家の音楽を、
対比して描き出した
レオンハルトの演奏は、
そうした音楽の潮流を
しっかりと愉しませてくれます。
(2022.2.12)
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