
17世紀ナポリの色彩豊かな宮廷音楽の響き
古楽の分野は
いまだによくわかりません。
よくわからないままに
CDを購入してしまうのですが、
聴いてみるとしっかりと愉しめます。
本盤もそうした一枚です。
フィリップ・ピケット指揮による
ニュー・ロンドン・コンソートの
「森と海の悦楽~ポジリポ1620年」です。
「森と海の悦楽~ポジリポ1620年」

「森と海の悦楽~ポジリポ1620年」
作曲者不詳:
シンフォニア・アンティカ
ジラーモ:
ニンフと羊飼いのカンツォネッタ
マッラ:
スパニョレッタ
ランバルディ:
幸運、時、名声、羨望の歌
作曲者不詳:
ガリアルダ
トラバーチ:
セイレーンの歌
デッラルパ:
ガリアルダ
スピアルド:
野人と猿の踊り
アンサローネ:
羊飼いたちの下山
トラバーチ:
ヴィーナスの歌
ファンティーニ:
ファンファーレ
スピアルド:
白鳥の踊り
ランバルディ:
パンの神と森のニンフの歌
スピアルド:
サテュロスと猿の踊り
サビーノ:
ガリアルダ・ファルサ
ランバルディ:
愛の神の歌
アンサローネ:
騎士たちの踊り
ニュー・ロンドン・コンソート
フィリップ・ピケット(指揮)
録音:1988年
「ポジリポ」は
ナポリ湾に面した丘陵地で、
16〜17世紀には貴族の別荘が立ち並び、
牧歌的な自然・海辺の風景・
神話的想像力が結びついた
文化的象徴地でした。
このアルバムは、
「森」(牧人・森の精・パン神)、
「海」(ニンフ・セイレーン)という
二つの世界を音楽で描く
「祝祭プログラム」として
構成されています。
これらは、当時ナポリを治めていた
スペイン副王の帰国を祝うための
「屋外仮面劇」として
上演されたものです。
1620年といえば、
初期バロック・オペラの誕生の時期と
重なります。
当時のオペラが
ギリシャ悲劇を題材として一つの物語を
描いたものであるのに対し、
この「仮面劇」は筋書がほとんどなく、
単純で断片的、寓意や神話の神々が
祝辞を述べるというものです。
つまり賓客に対する「おべっか」や
「ごますり」と考えていいのでしょう。
そのため、重厚なドラマ性よりも、
ナポリの美しい海と森を背景に、
「聴いて楽しく、観て華やかで、
踊り出したくなるような音楽」が
ギッシリ詰まった構成になっているのが
この作品の最大の魅力なのです。

本盤に収録されている
作曲家を整理すると、
以下のようになります。
ピエトロ・アントニオ・ジラーモ
生没年不詳
ナポリで活動した作曲家です。
収録されている
「ニンフと羊飼いのカンツォネッタ」は、
その名の通り、
ニンフと牧人の対話を描いた
軽やかなカンツォネッタです。
エットーレ・デッラ・マッラ
1570-1634
16世紀末から17世紀初頭の
ナポリで活躍した貴族であり、
アマチュアの作曲家兼
リュート奏者のようです。
「スパニョレッタ」は
リュート曲となっています。
フランチェスコ・ランバルディ
1587-1642
ナポリの作曲家です。
「幸運、時、名声、羨望の歌」は
壮麗な声楽曲、
「愛の神の歌」は牧歌的でありながら
儀式的な荘厳さもある素敵な曲です。
ジョヴァンニ・マリア・トラバーチ
1575–1647
この中で最も有名なのは
トラバーチでしょうか。
彼はナポリ王立礼拝堂のオルガニスト
および楽長を務めた、
17世紀ナポリ楽派を代表する巨匠です。
鍵盤音楽で名高く、
この祝祭劇の全体構造に
深く関わっている人物です。
「セイレーンの歌」は、
セイレーンの妖しい歌を描く
美しい声楽曲、
「ヴィーナスの歌」は、
女神ヴィーナスの
官能的な声楽曲となっています。
ジョヴァンニ・レオナルド・デッラルパ
1525-1602
ハープ奏者として知られる作曲家です。
「ガリアルダ」は軽快で技巧的な
舞曲となっています。
ジャコモ・スピアルド
生没年不詳
この作曲家の詳細は
よくわかっていないようです。
「野人と猿の踊り」は、
祝祭的な舞曲であり、
ナポリの宮廷祝祭で好まれた
題材のようです。
「白鳥の踊り」は、
優雅で視覚的イメージの強い舞曲です。
アンドレア・アンサローネ
1601-1650
この作曲家についても、詳しい情報を
見つけることができませんでした。
「羊飼いたちの下山」は、
牧人が山から降りてくる情景を描く
器楽曲です。
「騎士たちの踊り」は、
祝祭の終曲としてふさわしい
華やかさを持った曲です。
ジローラモ・ファンティーニ
1600-1675
ファンティーニはイタリア初期の
トランペット名手でした。
「ファンファーレ」は、ピケットが編曲し、
華やかなブラス・アンサンブルと
なっています。
ジョヴァンニ・マリア・サビーノ
1588-1649
17世紀前半のイタリアの
作曲家・オルガニスト・音楽教師です。
「ガリアルダ・ファルサ」は、
技巧的で変化に富む
舞曲となっています。

一通り聴いてみると、
ナポリ初期バロックの多彩さに
驚かされます。
声楽曲は劇的で、神話的登場人物が
生き生きと描かれる一方、
器楽曲は舞曲中心で、
リズムが明快、愉悦感に満ちています。
スペイン風・イタリア風・地中海的感覚が
混ざり合い、彩りも華やかです。
17世紀ナポリの色彩豊かな宮廷音楽の
響きが堪能できます。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2026.8.18)
〔関連記事:ピケットの音盤〕
〔オワゾリール・レーベルの音盤〕

【今日のさらにお薦め3作品】



【こんな音盤はいかがですか】










