マルガレート・エルマン「FREEDOM」を聴く

内なる「平和」の探求のための音楽

現代音楽はさまざまありすぎて、
何を聴けばいいかわからなくなります。
そのためCDの購入を
ためらうことが多かったのですが、
そんなときこそストリーミング。
いい時代になりました。
このところ聴いているのが
マルガレート・エルマンの「FREEDOM」。
素敵な音楽体験ができます。

マルガレート・エルマン「FREEDOM」

今日のオススメ!音盤

エルマン:
 A Leap into Silence
 Smile
 Unseen
 Timeless – Pt.1
 Timeless – Pt.2
 Shadows
 Drifting
 A Dive into the Open
 Timeless (Orchestral Version)

マルガレート・エルマン
 (hp、モジュラー・シンセサイザー)
ファビアン・ルスール
 (モジュラー・シンセサイザー)
ブダペスト・アート・オーケストラ
マヤ・レヴィ(vn)

本アルバムはどんな音楽か?
まずはYouTubeで公開されている
動画を見ていただければ
理解が早いと思います。

Margaret Hermant

本アルバムの最大の魅力は、
「伝統的なアコースティック楽器」と
「現代の電子音」の
絶妙なブレンドにあります。
動画で確認できるように、
音楽の主役となっているのは
オーケストラで使われる
グランドハープです。
ハープ特有の、みずみずしく、
空間にぽつぽつと広がっていくような
美しい残響が
音楽全体の土台になっています。
そこにモジュラー・シンセサイザーが
加わっているのです。
聴くかぎりは、ハープの音に
電子音を薄く重ねているようです。
ハープの自然な響きに対して、
モジュラー・シンセサイザーが
霧のような空気感を重ねています。
低くうねる持続音、
ゆっくりと変化する倍音、
かすかなノイズの揺れ、
こうした効果が音楽に
空間的な広がりをもたらしています。
電子音は自己主張せず、
ハープの響きを宇宙のように
広く引き伸ばす役割を果たしており、
非常に心地よい浮遊感を
生み出しているのです。

現代音楽は旋律線が明確ではなく、
「どこに向かうのかわからない」という
感覚が、私は苦手です。
しかし本アルバムは、メロディではなく
「空気の変化」を聴く音楽なのでしょう。
「少しずつ部屋に満ちる朝の光」
「雨が止んだあとの静けさ」
「ゆっくりと落ち着いていく心象風景」、
そうした「状態の移ろい」を
音で描いているのだと感じられます。

そのため一曲一曲が、
まるで美しい風景画や、
映画のワンシーンを見ているかのように
ドラマチックに展開します。
第1曲「A Leap into Silence」の
冒頭部では、ハープのソロが
親密に語りかけてきます。
その一方で、第2曲「Smile」や
第8曲「A Dive into the Open」では、
ブダペスト・アート・オーケストラによる
弦楽器の響きが加わり、
目の前がパッと開けるような
空間が広がります。
ストーリーではなく
情景を感じ取るべき音楽なのです。

「FREEDOM」というと、
クラシック音楽ではバーンスタインの
「Ode To Freedom」
(ベルリンの壁の崩壊を記念した
ベートーヴェン第九交響曲の演奏会)を
思い出しますが、本アルバムの趣旨は
それとは異なります。
政治的なメッセージなどではなく、
もっと個人的で
内省的なものとなっているのです。
日々の縛りや固定観念から
心を解放すること、もしくは、
静けさの中で自分自身の本当の
心地よさや純粋さに立ち返ること、と
考えられます。

今日のオススメ!

ちなみに
「モジュラー・シンセサイザー」とは、
「音をつくる部品」
「音量を変える部品」
「音色を変える部品」
「ゆらぎをつくる部品」というような、
それぞれの部品(モジュール)を、
レゴブロックのように組み合わせて使う
楽器です。
それらをケーブルでつなぎ、
自分だけの「音の回路」をつくるのが
モジュラー・シンセサイザーなのです。
動画に写し出されている
いくつかの箱状のものが
それではないかと思います。

ハープという「何百年も形が変わらない
アコースティック楽器」の隣で、
あの「無骨な電子回路の塊」が、
まるで呼吸を合わせるように
有機的な美しい音を奏でていると思うと
それだけで不思議なロマンを
感じてしまいます。

さて、本アルバムの主役
マルガレート・エルマン
(Margaret Hermant)ですが、
綴りを見ると自然に
「マーガレット・ハーマント」と
読みたくなります。
しかし彼女の出身地であるベルギー
(フランス語圏)の発音に基づけば
「マルガレート・エルマン」が
最も近いといえるのです。
ネット情報を検索すると彼女は、
ブリュッセルを拠点とする
ヴァイオリニスト兼ハーピストであり、
映画音楽・舞台なども手がける
作曲家となっています。
本アルバムにおいても、
プロデューサーであるとともに
作曲者・ハープ奏者・モジュラーシンセと
ほぼ一人ですべてを
まかなっているという印象です。

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本アルバムが彼女の
ファースト・ソロ・アルバムと
なっています。
ハープの透明さとモジュラーシンセの
「呼吸する空気」が重なる
この独特の世界は、頭を空っぽにして
感覚で味わう音楽なのでしょう。
心が癒やされます。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2026.5.26)

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