
複雑な人物像とその感情の変化を味わう
ヘンデルのオペラにはまりつつあり、
あれこれ聴くようになりました。
ここ何日か聴いているのは
「アグリッピーナ」。
ヘンデルのオペラ作品としては
「リナルド」「ジューリオ・チェーザレ」に
次いで人気のある作品です。
近年録音が増えてきたのですが、
私が聴いているのは
ユングヘーネルの指揮した盤です。
ヘンデル:アグリッピーナ

ヘンデル:
歌劇「アグリッピーナ」HWV.6
スザンネ・ゲープ(S)…アグリッピーナ
松井浩(Bs)…クラウディオ
ユディット・ブラウン(Ms)…ネローネ
エリザベス・ワイルズ(S)…ポッペア
デイヴィッド・コルディエ(C-T)
…オットーネ
マルクス・ヤウルシュ(Br)…パッランテ
スティーヴ・ヴァッハー(C-T)
…ナルチーゾ
ギド・ベーア(Bs)…レズボ
ザールラント州立管弦楽団
コンラート・ユングヘーネル(指揮)
録音:2008年
「アグリッピーナ」はこれまで
ヘンデル・オペラとしては
比較的多くの録音がなされてきました。
アリアが豊富であること、
歌手の個性を発揮しやすいということ、
演出家にとっても
解釈の自由度が高いということなどが
その理由としてあげられるでしょう。
配役と粗筋は以下のようになります。
〔配役〕
アグリッピーナ
…ローマの皇后で策略家。
息子・ネローネを
皇帝にしようと画策する。
クラウディオ
…ローマ皇帝。
アグリッピーナに振り回される。
ネローネ
…アグリッピーナの連れ子。まだ未熟。
ポッペア
…美しい女性。オットーネを愛する。
オットーネ
…誠実な将軍。ポッペアを愛する。
パッランテ
…解放奴隷。
アグリッピーナに利用される。
ナルチーゾ
…解放奴隷。
アグリッピーナに利用される。
レズボ
…皇帝の従者。

〔第1幕〕
夫であるローマ皇帝クラウディオが
水難死したという知らせを聞き、
皇后アグリッピーナは息子ネローネを
皇帝にしようと画策する。
しかしクラウディオは
将軍オットーネに救われて生還する。
クラウディオは功績を挙げた
オットーネを次期皇帝に指名。
だがオットーネは帝位よりも
ポッペアと結ばれることを望む。
クラウディオもポッペアに
好意を寄せている。
アグリッピーナは
クラウディオの嫉妬心を利用し、
オットーネを失脚させる奸計を練る。
〔第2幕〕
皇帝に即位するはずだったオットーネは
クラウディオから「裏切り者」と罵倒され
皇位も剥奪される。
ポッペアもオットーネに対して
すげない態度をとる。
しかしポッペアは彼の真意を確かめ、
自分たちがアグリッピーナの
罠にはめられたことを知る。
計略が破綻しかけたアグリッピーナは、
クラウディオに
ネローネを皇帝にするよう強く迫る。
クラウディオは
これを渋々了解してしまう。
〔第3幕〕
ポッペアの機転で真相が明らかになり、
クラウディオはオットーネの忠誠を認め
ポッペアとの結婚を許可する。
アグリッピーナの策略は露見するものの
巧みに言い逃れ、クラウディオは
ネローネに皇位を与える。
最後にクラウディオは
結婚の女神ジュノーネを召喚し、
婚姻とローマの栄光を歌う。

もともと私には
「対訳を見ながらオペラを聴く」という
習慣がありません。
歌詞を理解するよりも、
歌を聴いてその感情を味わうことの方が
音楽そのものを
体感できると考えているからです。
本作品は、各アリアから登場人物たちの
性格や思惑が透けて見えるところが
味わいどころといえます。
ソプラノのスザンネ・ゲープは、
策略家としての自信の漲るような
第1幕でのアグリッピーナ像と、
第2幕以降の
陰謀が露見しそうになったときの
内面の不安を、
巧みに表現していると感じます。
同じくソプラノの
エリザベス・ワイルズも、
透明感のある歌声で、
ポッペアの可憐さとしたたかさを
的確に描きわけていると感じます。
いくつかある「アグリッピーナ」の
録音の中で本盤を選んだのは、
日本人歌手・松井宏の名前が
クレジットされていたからです。
重厚な声質でありながらも、
皇帝の浮ついた性格を
軽妙に演じているのが見事です。
そして最終場面での皇帝の姿には
取り戻した威厳が
しっかりと現れています。
誠実なオットーネと従順なレズボ以外、
みな裏表のある役どころです。
アグリッピーナは必ずしも
「悪役」というわけではなく、
ポッペアも純情可憐な性格などではなく
したたかな策士です。
クラウディオも
浮気で優柔不断であるものの
「皇帝らしさ」を
十分に持ち合わせているのです。
ネローネも後年の(実在の)暴君ぶりが
想像できないほどの幼さです。
歌詞はわからなくとも、そうした
複雑な人物像とその感情の変化を、
歌手たちの歌の表現から味わうことこそ
本作品を聴く醍醐味なのです。

80年代以降CDが主流となり、
古楽演奏も一般化し、
ヘンデルのオペラやオラトリオが
続々と録音されています。
一つ一つじっくり
味わっていきたいものです。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2026.4.28)
〔関連記事:ヘンデル作品〕


〔ヘンデル「アグリッピーナ」音盤〕

【今日のさらにお薦め3作品】



【こんな音盤はいかがですか】







