ヴィヴァルディ「オリンピアーデ」を聴く

アレッサンドリーニが引き出す、ヴィヴァルディ・オペラの魅力

ヴィヴァルディといえば
「四季」をはじめとする協奏曲の数々、
あとはチェロ・ソナタあたりしか
聴いてきませんでした。
何の気なしに
買ってしまった本盤ですが、
ヴィヴァルディのオペラの魅力に
圧倒されました。

ヴィヴァルディ 歌劇「オリンピアーデ」

今日のオススメ!

ヴィヴァルディ:
 歌劇「オリンピアーデ」

サラ・ミンガルド(A)
 …リチーダ
ロベルタ・インヴェルニッツィ(S)
 …メガクレス
ソニア・プリナ(A)
 …アリステア
マリアンナ・クリコヴァ(Ms)
 …アルジェーネ
ラウラ・ジョルダーノ(S)
 …アミンタ
リッカルド・ノヴァーロ(Br)
 …クリステーネ
セルジオ・フォレスティ(Bs)
 …アルカンドロ
コンチェルト・イタリアーノ
リナルド・アレッサンドリーニ(指揮)

「オリンピアーデ」という
表題が示すとおり、
オリンピックを素材とした作品です。
配役と粗筋は以下のようになります。

〔配役〕
メガクレス

…アテネの青年。
 オリンピアードの常勝者。
 王の娘アリステアを愛する。
リチーダ
…メガクレスの親友。
 自分の恋を成就させるため、
 メガクレスに身代わり出場を依頼。
 物語後半で
 「出生の秘密」が明かされる。
アリステア
…王の娘。
 メガクレスと愛し合っている。
 父が「優勝者に娘を与える」と
 宣言したため運命が狂う。
アルジェーネ
…リチーダを密かに愛する女性。
 物語後半でリチーダの真実を知り、
 結末の「もう一組のカップル」となる。
クリステーネ…シキオンの王。
アミンタ…リチーダの従者。
アルカンドロ…クリステーネ王の腹心。

〔第1幕〕
シキオンの王クリステーネは、
「競技の優勝者に娘アリステアを
与える」と宣言する。
アリステアと愛し合っている
メガクレスだが、親友のリチーダから
「自分に代わって出場してほしい」と
頼まれる。
かつて命を救われた恩がある
メガクレスは、リチーダの名を騙って
出場することを決意。
しかし、その賞品が
愛するアリステアであることを知り、
友情と愛の間で激しく葛藤する。

〔第2幕〕
リチーダの名で出場したメガクレスは
見事に優勝する。
アリステアは恋人が勝ったと喜ぶが、
メガクレスは「君を娶るのは
親友のリチーダだ」と告げ、
絶望して姿を消す。
真実を知ったアリステアは嘆き、
さらにリチーダを追って潜入していた
元婚約者アルジェーネも現れる。
不正を知った王はリチーダを追放する。

〔第3幕〕
絶望したリチーダは、
王の暗殺を企てるが失敗し、
死刑を宣告される。
処刑の直前、アルジェーネが
リチーダから贈られた首飾りを
差し出すと、それを見た王は驚愕する。
それはかつて予言を恐れて捨てた、
自分の息子(アリステアの双子の兄)の
ものだった。
リチーダは実は王の息子であることが
判明し、特赦が与えられる。
最終的に、メガクレスはアリステアと、
リチーダはアルジェーネと結ばれ、
二組の幸せなカップルが誕生した。

本盤は輸入盤であり、
日本語対訳は付属していません。
それ以前に、この
「オリンピアーデ」という作品の場合、
日本語対訳を附した国内盤は
これまでリリースされた形跡がなく、
しかもネット上の
「オペラ対訳プロジェクト」を探しても
見当たりません。

粗筋からおおよその場面を
想像して聴き進めると、
歌詞はわからないものの、
歓喜の場面と悲嘆に暮れる場面の
入れ替わりが
実に激しいことがわかります。
作品全体の
「感情の起伏が激しい」のです。
このような展開こそ、
バロック・オペラ、とりわけ
ヴィヴァルディ作品の特徴なのです。
それをじっくり味わうべきでしょう。

1678 Vivaldi

バロック時代には、
ひとつの曲(アリア)の中で
ひとつの特定の感情
(悲しみ・怒り・喜びなど)を徹底的に描く
「アフェクト(情動)理論」がありました。
「オリンピアーデ」では、
登場人物が置かれる状況が
目まぐるしく変わるため、
前の曲で「深い絶望」を
歌っていたかと思えば、
次の人物が登場して
「復讐の炎」を激しく燃やす、
といった具合に、
音楽の色彩が百八十度入れ替わります。
この「コントラストの強さ」が、
現代の私たちには非常に激しい
感情の起伏として響くのです。

この物語の核心は、
「恩人である親友を助けたい」という
義務感と、
「愛する人を奪われたくない」という
メガクレスの個人的な情熱の
衝突にあります。
「友情のために愛を捨てる苦悩」と
「競技に勝たねばならない使命感」をも
抱えているのです。
このように、一人の人間の中に
いくつもの「正反対の感情」が
共存しているため、旋律もそれに応じて
極端な跳躍やテンポの変化を
見せていくのです。

さらに作曲者ヴィヴァルディは、
「四季」に代表されるように、
ヴァイオリン協奏曲の大家です。
彼はオペラのアリアにも、
協奏曲で培った「急ー緩ー急」の
ダイナミズムを持ち込んだのです。
指揮者アレッサンドリーニは、
本録音において、
ヴィヴァルディ特有の鋭いアクセントや
弦楽器の激しい刻みを強調しているため
作品の持つドラマチックな要素が、
より一層強調され、
嵐のようなエネルギーを
感じてしまうのです。

そして本作品は、
第2幕にドラマティックな展開が
用意されています。
そのためアリアの聴きどころも
第2幕に集中しています。
特に第2幕第5場のアミンタのアリア
「Siam navi all’onde algenti」は、
このオペラの一つのクライマックスを
創り上げています。
ソプラノのラウラ・ジョルダーノは、
「美声」というよりも「可愛い声」で、
聴き手を魅了していきます。
そしてメガクレスのアリアが、
リチーダと入れ替わって優勝し、
愛するアリステアと別れねばならない
絶望を歌い上げます。
歌詞がわからなくとも
ロベルタ・インヴェルニッツィが、
ヴィヴァルディらしい旋律美と
情熱的なフレーズを
表情豊かに表現しています。
さらにリチーダの絶望感に満ちた
アリアが第2幕を締めくくります。
ドラマティックで緊張感の高いアリアを
見事にこなしたサラ・ミンガルドの
歌唱は素晴らしい限りです。

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3時間弱の長丁場のオペラですが、
聴き手を飽きさせることがありません。
さすがはヴィヴァルディです。
もしかしたらヴィヴァルディ作品は、
協奏曲やチェロ・ソナタ以上に、
オペラを聴くべきなのではないかと
思わせる素敵な音楽です。
残念ながらヴィヴァルディのオペラの
音盤の数はまだまだ少なく、
リリースされたと思えばすぐに廃盤、
中古でも高値を維持しているという
希少な存在となっています。
丹念に探して楽しみたいと思います。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2026.4.21)

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