
ヴェーフェルベルフの素敵な一枚
モーツァルトの
クラリネット五重奏曲が好きで、
ついつい買ってしまいます。
もう買わなくてもいいのではないかと
思いつつ、
先日も購入してしまいました。
本盤はクラリネット五重奏曲K.581の
ピアノ・デュオ版である
グランド・ソナタK.581を
併録している面白そうな盤であり、
それが目当てです。
モーツァルト「クラリネット五重奏曲」
ヴラド・ヴェーフェルベルフ

モーツァルト:
クラリネット五重奏曲 K.581
グランド・ソナタ K.581
(編曲者不詳:cl&fp版)
交響曲第1番K.16よりMolto Allegro
ピアノ協奏曲K.453よりAllegretto
テラ・ノヴァ・
コレクティーフ・アントウェルペン
ヴラド・ヴェーフェルベルフ
(バセットcl&芸術監督)
アンソニー・ロマニウク(fp)
録音:2015年
モーツァルトが1789年に作曲した
「クラリネット五重奏曲 K.581」は、
クラリネットと弦楽四重奏のための
室内楽作品であり、
親友でクラリネット奏者の
アントン・シュタードラーのために
書かれました。
そのシュタードラーは、
低音域を拡張した独自の
バセット・クラリネットを
使用していました。
モーツァルトはその音色に
魅了されたようです。
そのためこのK.581や
「クラリネット協奏曲 K.622」などの
作品は、シュタードラーの
バセット・クラリネットを想定して
書かれたと考えられています。
しかしモーツァルトの自筆譜は
現存していません。
後世の出版譜では
通常のクラリネット用に
書き換えられていることが多いため、
演奏上は通常のA管クラリネットで
演奏されることが多かったのです。

バセット・クラリネットは
古楽器として扱われているため、
バセット・クラリネットが改良されて
現行のクラリネットが
生み出されたという認識がなされている
ことが多いようですが、
先にできたのはクラリネットであり、
それを改良して
バセット・クラリネットが
できあがったのです。
しかしバセット・クラリネット用に
作品を書いたのが
モーツァルトぐらいだったことや、
高度な演奏技術が必要とされたこと、
クラリネット自体が
さらに改良されたこともあり、
バセット・クラリネットは
急速に廃れてしまいました。
ところが近年再び見直されてきており、
バセット・クラリネットによる
K.581の演奏が増えてきたのは
喜ばしいことです。
もう一方のK.581、グランド・ソナタは、
編曲者が不明なのですが、
19世紀初頭には楽譜が
出版されていたことが知られています。
その後、研究者で演奏者の
クリストファー・ホグウッドが校訂した
版が楽譜として現在で回っています。
しかし本盤には「ホグウッド校訂版」の
記載がないところをみると、
本演奏における使用楽譜は、
1809年アルタリア社出版の
原典資料に基づく
ヴェーフェルベルフ自身の校訂した
楽譜である可能性が高いと思われます。
実際に聴いてみると五重奏版K.581は、
バセット・クラリネットが美しく響き、
素朴で深みのある音色を
愉しむことができます。
ヴェーフェルベルフの演奏には、
モーツァルトの意図した音楽に
最大限近づけようとする姿勢が
強く感じられます。
弦楽四重奏もおそらくは
ガット弦の古楽器を
使用しているものと思われます。
バセット・クラリネットと一体化し、
バランス良く仕上がっています。
そしてアーティキュレーションが
滑らかであり、
モーツァルトの旋律を
バセット・クラリネットが楽しそうに
歌っている感じが伝わってきます。
グランド・ソナタK.581ですが、
こちらもバセット・クラリネットと
フォルテ・ピアノがうまく溶け合い、
古楽器の純朴な響きに
浸ることができます。
やや早めのテンポで
軽やかに進行していく流れは、
心地よさを感じさせます。
詳しいことは分かりませんが、
この編曲は、弦楽四重奏の各声部を
忠実に鍵盤楽器で再現しようとした
ものではなさそうです。
部分的に簡略化され、
弦楽四重奏版よりも
クラリネットが引き立つような
編曲となっているように聞こえました。
こちらもバセット・クラリネットの
音色を十分に愉しむことができ、
大満足です。
このヴェーフェルベルフ版と
ホグウッド版はどのように違うのか、
そちらも興味のわくところです。
なお、本盤の全曲が
Terra Nova Collectiveの
公式YouTubeチャンネルにて
公開されています。
2曲の第1楽章のみ貼り付けておきます。
さらに
「交響曲第1番K.16よりMolto Allegro」
「ピアノ協奏曲K.453よりAllegretto」の
2曲が併録されています。
こちらは管弦楽演奏ですが、
Terra Nova Collectiveは
10名ちょっとのメンバーで、
室内楽的演奏となっています。
2曲のK.581の爽やかな余韻をさらに
深めるような構成となっています。
録音も秀逸です。
残響の少ない環境で
録音されたものであり、ここにも
モーツァルトの時代の演奏に
近づけようとする配慮を感じます。

聴き慣れたはずのK.581が、
さらにリフレッシュされて新しい姿を
現したような感覚を覚えました。
クラシック音楽は、常に
新しくアップデートされているのです。
それを思う存分味わいたいものです。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.10.21)
〔モーツァルトK.581はいかが〕
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