
再び、名手オリヴィエ・ラトリーのオルガンで
先日、フランソワ・クープランの
「修道院のためのミサ」を
取り上げました。
それと対になるのがこの
「教区のためのミサ」です。
「修道院ミサ」と同じ、
オリヴィエ・ラトリーの音盤です。
こちらも素敵な音楽世界が
展開していきます。
F.クープラン「教区のためのミサ」

F.クープラン:
教区のためのミサ
キリエ
グローリア
オフェルトリウム
サンクトゥス
アニュス・デイ
イテ・ミサ・エスト
オリヴィエ・ラトリー(org)
クレマンス・カリ(S)
マルト・ダヴォスト(S)
ジャンヌ・ルフォール(S)
シリル・エスコフィエ(T)
マルク・モイヨン(Br)
ジャン=マルク・ヴィエ(Br)
ジャン=イヴ・エモズ(指揮)
録音:2022年
クープラン22歳の1690年に出版された
「2つのミサ曲からなるオルガン曲集」は、
「修道院ミサ」と「教区ミサ」の
二つからなるものです。
クープランの時代のフランスでは、
教区向けと修道院向けで
典礼音楽の様式が異なっており、
「修道院ミサ」は、
修道院の静謐で内省的な環境に
合わせて創られたため、
厳かな雰囲気に包まれながらも、
全体的に明るく優美な曲調の
美しい曲となっています。
それに対して「教区ミサ」は、
一般の信徒が集う教区教会での
典礼用として創られたため、
より荘厳で
華やかな音楽となっています。
声部のかけ合いなども見られ、
聴衆を強く意識したような
構成となっているのです。
しかしどちらも「アルテルナティム形式」
(聖歌とオルガンが
交互に演奏される形式)を
前提に書かれているものであり、
実際のミサでの使用を
想定したものとなっています。
クープランは若くしてすでに
こうした用途に応じた演奏効果を考え、
二つの作品を書き分けていたのです。

実際に聴いてみると、
「教区ミサ」はやはり
荘厳な響きが随所に感じられます。
古典的な音楽様式が感じられ、
「修道院ミサ」以上に宗教色が
前面に押し出されている印象です。
親しみやすさという点では
「修道院ミサ」なのですが、
格式の高さという観点では
「教区ミサ」が
より強く表れているといえます。
オルガン奏者・ラトリーは、
この両曲の特性を分析し、
適切に表現し分けていると思われます。
フランス・バロックの
オルガン音楽の典礼的多様性を
体現しているといえるでしょう。
他の音盤を見ると、
オルガンのみの演奏も多々あります。
マリー=クレール・アランなどは
オルガンのみの演奏と
なっていたはずです。
それをあえてラトリーは、
声楽陣を交えての
当時のミサ式次第の流れで
全曲を録音しているのです。
両作品が当時、
どのような意図で書き分けられ、
どのような位置づけで
存在していたのか、
現代に再現しようとする試みと
思われます。
この両盤の録音年月日を見ると、
どちらも
「2022年1月5-9日、4月4-6日」、
演奏者もまったく同一です。
おそらく両曲を同じ日に
演奏・収録したものと考えられます
(ただし、1月に一方を、
4月に他方を録音した可能性も
考えられます)。
「修道院ミサ」同様、
本盤のジャケット装幀も素敵です。
音楽配信が主流となり、
パッケージ音楽が
存亡の危機を迎えている最中、
その流れに逆行する
豪華なパッケージです。
やはりブックレットも
80ページ超と厚く、
しかも堅牢なデジパック構造であり、
所有する価値を実感します。
なんとも豪華な装幀です
(これがこのレーベルの標準仕様!)。
Chateau De Versailleレーベル
恐るべしです。

それはともかく、
クープランの二つのミサ曲を、
同一演奏者の演奏で
比べてみることにより、
さらに音楽の世界が広がります。
両盤揃いでぜひご賞味ください。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.10.14)
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