
プロ・カンツォーネ・アンティクァの精緻な合唱
DHM-BOX第1集に収められている
ラッススの作品集は二枚あります。
一方は以前取り上げた
「レクイエム」ですが、もう一方が
この「宗教的合唱作品集」です。
3曲が収録されています。
ラッスス「宗教的合唱作品集」

ラッスス:
モテット「音楽は神の最良の贈り物」
モテット
「シオンよ、汝の救い主を讃えよ」
ミサ曲「途方にくれて」
ブルーノ・ターナー(指揮)
プロ・カンツォーネ・アンティクァ
録音:1975年
ラッススは、
16世紀後期ルネサンス音楽を代表する
巨匠の一人であり、
宗教音楽・世俗音楽の両面で
膨大な作品を残しました。
その数は何と2000曲以上。
モテットだけでも530曲以上、
ミサ曲は60曲以上に及ぶのですから
驚きです。
それらのほとんどが
現存しているらしいのですが、
録音はまだまだ
その一部にとどまっています。
本盤収録のモテット
「音楽は神の最良の贈り物」は、
530曲のモテット作品の中でも
代表的な作品として知られています。
わずか4分弱の6声のモテットですが、
無限境の世界へ誘われるかのような
ハーモニーが響き渡ります。
続くモテット
「シオンよ、汝の救い主を讃えよ」は、
22分を超える長さの
6声のモテットです。
宗教的な要素と音楽としての美しさが
高いレベルで融合した、
後期ルネサンスのポリフォニー様式の
頂点ともいえる作品となっています。
ミサ曲「途方にくれて」は、
4声のミサ曲で、
30分弱の演奏となっています。
荘厳なミサ曲であるとともに、
安らぎや美しさ、
そして高い芸術性を感じさせる
音楽として昇華しています。
ラッススの作品の旨味を
最大限に引き出しているのが、
指揮者のターナーなのでしょう。
ターナーは音楽学者としても知られ、
作品の背景やテキストの意味に
深く根ざした解釈を行うことで
定評があります。
本盤においても、
ラッススのポリフォニーの構造を
明晰に浮かび上がらせ、
その美しさを引き立たせているのです。
そしてそれを的確に表現しているのが
プロ・カンツォーネ・アンティクァ
なのです。
プロ・カンツォーネ・アンティクァは、
英国の古楽演奏団体の中でも
特に精緻なア・カペラ演奏で
知られています。
男声の純朴な響きが、
ラッススの作品にふさわしい
荘厳さを与えています。

素敵な演奏なのですが、
惜しまれるのが録音です。
ややくぐもったように聞こえてきます。
クリアさという点で今ひとつです(私の
再生環境のせいかもしれませんが)。

音楽史において、
ラッススと同時代の作曲家としては、
パレストリーナやビクトリアが
挙げられます。
それらと比較するとラッススには、
フランドル出身ながら、
イタリアやフランス、ドイツの
宮廷文化を吸収し、
各言語の詩に応じた
音楽表現を展開するなど、
多言語・多文化的な作曲家としての
特徴が見られます。
また、パレストリーナやビクトリアが
宗教曲主体であったのに対し、
このラッスス作品は
世俗曲も多彩であり、
幅の広い芸術家であったことが
うかがえます。
本盤は、そうしたラッススの音楽の
特徴と旨味を凝縮したような
仕上がりとなっており、
一聴の価値ありです。
ぜひご賞味ください。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.10.7)
〔関連記事:ラッススの作品〕
ラッススの「レクイエム」を聴く
ルネサンス音楽の集大成、
オルランドゥス・ラッスス
〔関連記事:DHM-BOX〕



〔ラッススの音盤はいかが〕

【今日のさらにお薦め3作品】



【こんな音盤はいかがですか】







