
テルツ少年合唱団の初々しい響き
少年合唱団を起用した
モーツァルト「レクイエム」は
いくつか登場しています。
その先駆けともいえるのが
本盤でしょう。
少年合唱団だけでなく、
ソプラノ、アルトには
ボーイ・ソプラノ、ボーイ・アルトを
あてて、完全に
男声のみの演奏となっているのです。
モーツァルト「レクイエム」

モーツァルト:
レクイエム ニ短調 K.626
(バイヤー版)
ハンス・ブッフヒール(B-S)
マリオ・クレーマー(B-A)
ヴェルナー・クレン(T)
バリー・マクダニエル(Bs)
テルツ少年合唱団
コレギウム・アウレウム
ゲルハルト・シュミット=ガーデン
(指揮)
録音:1974年
もちろん聴きどころの一つは、
テルツ少年合唱団です。
残念ながら出来は今ひとつです。
しかし完成度が低いとはいえ、
その初々しさこそ
味わうべきポイントと考えます。
技巧の不足する分を情熱で
カバーしようとしているかのような、
一生懸命の歌唱を
聴き取ることができます。
第2曲「Kyrie」第3曲「Dies irae」など、
速いパッセージを
頑張って歌いきっている感があり、
心を打たれます。
私のように、あえて少年合唱で
聴きたいと思っている人間には
ぴったりの演奏といえます。
反面、少年合唱に価値を
見いだしていない方にとっては
再び聴こうとは思わない
盤であるはずです。
テルツ少年合唱団は、
本盤の25年後の1999年、
指揮者ヴァイルのもとで
再録音を果たしています(その録音も
合唱指揮はシュミット=ガーデン)。
そちらは本盤とは一転、
洗練された
美しいハーモニーを響かせています。
ヴァイル盤と本盤とのちがいは
大きなものがあります。
四半世紀の中でテルツ少年合唱団が
大きく進化発展したと
とらえるべきなのでしょう。
聴きどころのもう一つは、
少年ソリスト二人です。二人とも
テルツ少年合唱団員らしいのですが、
なかなか聴かせてくれます。
ボーイ・ソプラノのハンスは
決して美声とはいえないのですが、
存在感のある声質です。
よくあるボーイ・ソプラノの
歌唱集のような
透明さではありませんが、
しっかりとした魅力を
感じさせてくれます。
ボーイ・アルトのマリオも
すっきりした声で
明瞭に聞き取ることができます。
大人のような技巧はないものの、
この難曲を丁寧に歌いあげています。
テノールのクレン、バリトンの
マクダニエルの大人のソリスト二人は、
少年たちと上手に合わせ、
バランスのとれた歌唱をしています。
第6曲「Recordare」などは
通常の大人の四重唱とはまた異なる
魅力を感じさせます。
録音が秀逸であることが、
本盤の魅力を高めています。
分離が良く、ソリストたちの声が
しっかりと浮き出るような
録音となっています。
また、声楽と古楽器オケとのバランスも
ほどよいものとなっています。

なお、
モーツァルトの「レクイエム」の場合、
版が問題となるのですが、
本盤はバイヤー盤。
それもどうやらバイヤー版の初録音。
しかも校訂者である
フランツ・バイヤー自身が
コレギウム・アウレウムの
ヴィオラ奏者でもあるため、
本録音にも参加しているという、
そちらの方でも
かつて話題となっていた盤なのです。
トータルで考えたとき、合唱、ソリスト、
そしてコレギウム・アウレウムの演奏は、
現代の古楽器オケの到達した
レベルからすると、
物足りない感じを覚えてしまうのは
致し方ありません。
しかしながら本盤は、
古楽器演奏の嚆矢として、
バイヤー版による初演として、
少年合唱少年ソリストの
先駆け的存在として、
色褪せぬ魅力を放っているのです。
存分に味わおうではありませんか。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
※なお、本盤はDHMーBOXの10枚組
「W.A.Mozart Edition」に
収録されています。
私はそちらを購入しました。
(2025.7.1)
〔関連記事:モーツァルト「レクイエム」〕





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