
ロンドン中世アンサンブルの素敵な音楽
14世紀フランスの作曲家、
ギヨーム・ド・マショーといえば
「ノートルダム・ミサ」が有名です。
実はミサ曲はこの1曲しか
現存していないようですが、
モテット、バラードなど、マショーは
いくつもの曲を創り上げています。
しかし本盤に収録されている
「レ」とはどんな音楽?
マショー「泉のレ/慰めのレ」

マショー:
泉のレ
私はたえず祈っているのです
一体どこで
見つけることができようか
そのお方とは、ほかならぬ
この三つが一つだということは
そしてもしこの水を取って
だがこの三位一体は
それ故、父は水脈と呼ばれ
それ故にこそ私はいうのだ
それ故にこそ
あなたにお祈りいたします
一所懸命泣いてみたとて
おお、和合の泉よ
これまで私の過ちの元となっていた
慰めのレ
人は誰でも
他人の考えていることよりも
徳高く、非のうちどころなき
気がついてみると
誉れある姫君よ
そうしたあとであなたから
それは私をとても大きな歓喜の中に
ああ、その甘く
すばらしくうるわしい
死よりもずっと恐れていたことが
あの方は本当に
私には判らない
いとやさしきすばらしきわが姫君よ
恋する男よ
ロンドン中世アンサンブル
ロジャーズ・カーヴィ・クランプ(T)
ポール・エリオット(T)
アンドリュー・キング(T)
ロバート・クーパー
(フィドル&レベック)
ピーター・デイヴィス
(プサルテリウム&ハープ)
ティモシー・デイヴィス
(ギターン&リュート)
録音:1982年
「レ」とはどんな音楽なのか?
ブックレットの解説を読むと、
次のようにあります。
「12世紀の終りに登場し、
13世紀を通じて展開されたもの」、
「セクエンツィアのように
多節から」なる、という説明だけで、
まったくわかりませんでした。
Wikipediaで調べても、
「通常いくつかのスタンザからなるが、
各連が同じ形式を取ることはない。
結果として音楽には反復がなくなる。
この特徴ゆえに、「レ」を
他の同時期の音楽的に重要な詩形と
見分けることは容易である」。
何が何やらわかりません。
マショーの作曲した声楽曲の一覧を
調べてみると、ミサ曲である
「ノートルダム・ミサ」のほかに、
「モテトゥス」が23曲、
「バラード」が42曲、
「ロンドー」が22曲、
「ヴィルレー」が33曲、
そして「レ」が19曲となっていました。
再びブックレットに戻ると、
「レ」は、
「13世紀の終りまでの
作品例としては、およそ30曲ほどしか
残されていない」と書かれてあります。
マショーがこの「レ」という音楽形式を
重視していたことはわかりました。

形式がどうなのかわからなくても、
聴こえてくる音楽をそのまま受け止め、
そのまま楽しめればいいのです。
というわけで、ここのところ、
何度も繰り返し聴いています。
少なくとも教会音楽のような
厳めしさはありません。
世俗音楽が
ベースとなっているのでしょう。
トルヴェールの音楽のようにも
聴き取れます。
前半部「泉のレ」、
1節目は単旋律、独唱なのですが、
2節目は3声で展開していきます。
どうやら奇数節は単旋律で歌われ、
偶数節が3声で
演奏されるもののようです。
この曲の場合、
声楽のみの無伴奏曲となっています。
後半部「慰めのレ」、
こちらは器楽が入ります。
といっても器楽演奏者は3名
(それもよくわからない楽器!)。
当然、現代の感覚の
「伴奏」とは異なります。
こちらの方が
より世俗音楽的な雰囲気があります。
演奏のロンドン中世アンサンブルの
紡ぎ出す音楽は本盤でも秀逸です。
スピーカーから中世の音だけでなく、
空気感までがこぼれ落ちてくるような
感覚があります。
これまでデュファイとオケゲムの
「世俗音楽集」、
イザークの
「インスブルックよ、さらば」を
取り上げましたが、本盤もまた、
味わい深い一枚となっています。
おそらくマショーの音楽は、
その一部しか
音盤になっていないのでしょう。
これからまだまだ「レ」をはじめとする
多くの素敵な音楽が録音され、
形となって
私たちの耳に届いてくるのでしょう。
それを考えただけでも、
人生は素晴らしいと感じます。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.6.10)
〔関連記事:ロンドン中世アンサンブル〕

オケゲム「世俗音楽全集」を聴く
デュファイ「世俗音楽全集」を聴く
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