
力作なのにヒットしなかった!不運の人と曲
アイブラーという作曲家を
知っている人は
決して多くはないでしょう。
知っている人でさえ、
「モーツァルトのレクイエムの補筆を
お願いされたけど投げ出した人」
くらいの認識であるはずです。
ほとんど音盤もでていません。
でも、「レクイエム」の録音が
1993年にリリースされています。
アイブラー「レクイエム」

アイブラー:
レクイエム ハ短調
Requiem
Dies Irae
Mors Stupedit
Liber Scriptus
Recordare
Confutatis
Voca Me
Lacrymosa
Domine
Hostias
Sanctus
Benedictus
Agnus Dei
Cum Sanctis
Requiem
Cum Sanctis
バルバラ・シュリック(S)
イゾルデ・アッセンハイマー(A)
ハリー・フォン・ベルヌ(T)
ハリー・ファン・デル・カンプ(Bs)
ヴォルフガング・ヘルビッヒ指揮
アルスフェルト・
ヴォーカル・アンサンブル
ブレーメン・シュタイントール・バロック
録音:1992年
これがなかなかの力作です。
というよりも手の込んだ作品です。
モーツァルトのレクイエムが
ジュスマイヤーによって完成されて
ほぼ十年後の1803年に
完成しているのですが、
この段階でロマン派の香りが
すでに漂っているのです。
ハイドンやベートーヴェンを
一足飛びに、
ヴェルディやワーグナーのような
フレーズをそこここに
聴き取ることができるのです。
当時の聴衆からすれば
かなり前衛的な要素を取り入れた
流行の先端を行く音楽として
とらえられたのではないかと思います。
しかもモーツァルトのレクイエムよりも
編成が大きく、
聴かせどころを見事に押さえた
オーケストレーションとなっています。
もう少しひねりをきかせれば、
のちのベルリオーズの
レクイエムのような雰囲気を
醸し出していたかもしれません。
それでいながら、モーツァルトの
レクイエムを連想させるフレーズも
いたるところに
顔を出してしまっているのが
面白いところです。
意図しないままに表出してしまったか、
あるいは意図的に引用したのか、
もしくは確信犯的にパクったか、
真相は定かでありませんが、
これはこれで素敵です。当然、
「それってパクりだろ!」のような批評も
当時あったと想像されます。
力作なのにヒットしなかった!
なんとも残念な曲です。

そもそもこのアイブラーは、
モーツァルトのレクイエムの
補作を投げ出したとはいえ、
ある程度までの作業を
終えてはいたのです。
それにさらにジュスマイヤーが
補作したのですが、
アイブラーの補作部分の評価は
決して悪くはなかったのです
(ジュスマーイヤーの補作は
悪評だったため、
バイヤー版をはじめとする
様々な改訂版の乱立を招いた)。

なぜアイブラーは
モーツァルトのレクイエムの補作を
放棄したのか?
もし彼が完成させていれば、
その後の多種多様な補筆版が
登場することはなかったのではないか?
そう思わせるような出来映えの
アイブラー作「レクイエム」なのです。
ちなみにジュスマイヤーも
「レクイエム」を作曲しているのですが、
そちらは曲調が明るすぎて
「レクイエム」としては
重みのないものとなっています。
アイブラー作「レクイエム」は
荘厳さもあり、実際の典礼に用いても
何ら問題がない仕上がりです。

実はアイブラーは「レクイエム」以外にも
オラトリオ、ミサ曲、カンタータなど、
ほかにもキリスト教音楽を
作曲していたようです。
音盤を探してみたのですが、
見つけることができません。
アイブラーは力があるのに売れなかった
不運な作曲家であると感じます。
モーツァルトという光が、
あまりにも強烈すぎて
その存在がかすんでしまった作曲家の
一人なのでしょう。
モーツァルト以前に生まれた
ミスリヴェチェクといい、
このアイブラーといい、
モーツァルトの時代を探せば、
まだまだ素敵な作曲家が
潜んでいるということなのでしょう。
アイブラーの作品を
粘り強く探していきたいと思います。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.5.20)
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〔関連記事:モーツァルト「レクイエム」〕



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