
ヒルデガルド、その神秘的な響きを愉しむ
謎に包まれている中世の音楽の中で、
もっとも古い時代に
名前の記録されている作曲者
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン。
彼女の音楽を集めた5枚組CD-BOX
「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンへの道」
その1枚目、4枚目を
以前取り上げましたが、
今日はその2枚目です。
神秘的な音楽が広がっていきます。
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン
「神の光~アンティフォナ&詩篇集」
アウグスブルク古楽アンサンブル

作曲者不詳:
詩篇第94番
「Domine, labia mea aperies」
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:
おお、何と驚くべき予見が
おお、青々とした小枝よ
作曲者不詳:
清らかにオルガンが鳴り響け
詩篇第112番
「主の僕たちよ、主を賛美せよ」
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:
オ・スペクタビレス・ヴィリ
(アンティフォナ)
オ・スペクタビレス・ヴィリ
おお、照らされし御方
(アンティフォナ)
おお、照らされし御方
今や教会の母なる内が喜ばんことを
作曲者不詳:
詩篇第116篇
「すべての人よ、主をたたえよ」
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:
愛は全てに宿り
作曲者不詳:
詩篇第150篇「主をほめ讃えよ」
ヒルデガルト・フォン・ビンゲン:
光に満ち溢れた日
O Pater omnium – In principio
アウグスブルク古楽アンサンブル
録音:1997年
輸入盤であるため、
ブックレットは英語と独語のみ。
そのためよくわからないのですが、
ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの
曲以外はすべて作曲者不詳のようです。
それらの中で4曲目以外の
1、5、11、13曲目については、
ブックレットには「Gregorianik」と
表記されていますので、
グレゴリオ聖歌ではないかと
思われます。
ヒルデガルトの曲に
グレゴリオ聖歌が挟み込まれ、
えも言われぬ神秘的な音楽世界が
つくり上げられています。
ヒルデガルトの曲のみの構成でも
十分素敵だと思うのですが、
単調になるのを避けたのでしょう、
無伴奏男声モノフォニー、
ソプラノ・ソロ、
器楽演奏などがバランス良く配置され、
一つのプログラムとして
成立しているのです。
中世の音楽の場合、
歌詞対訳など必要ありません。
声を楽器の一つと見なし、
聴こえてくる音に
ただただ耳を澄ませればいいのです。
そしてその音を
全身で受け取るだけなのです。
そうして聴いていくと、
特に何曲か含まれている
ソプラノ・ソロの曲に
心が癒やされる思いがします。
教会での録音なのでしょうか、
十分な残響によって、
ソプラノの響きが天上から
降り注いでくるような感覚があります。
演奏の
アウグスブルク古楽アンサンブルの
メンバーである
ザビーネ・ルッツェンベルガーの
清浄な歌は、まさにヒルデガルトが
歌っていると錯覚してしまうほどです。
調べてみると、
アウグスブルク古楽アンサンブルは
中世音楽を専門としている
演奏団体であり、
ザビーネ・ルッツェンベルガーは
ヒルデガルト歌唱の
スペシャリストなのでした。
納得の出来映えです。
それにしてもこの音楽からは、
光や水、風や大地といった
ピュアな自然しか感じられません。
人間の雑念など
皆無のように感じられます。
音楽技法が進歩していない時代の
単純な音楽だからといってしまえば
それまでなのですが、
だとすれば音楽の進歩発展は、
人間の感情を表現することに
四苦八苦した歴史ということに
なるのでしょうか。
ワーグナーやブラームス、
マーラーといった
人間の喜怒哀楽を
濃厚に表現した音楽を聴き続け、
それらに食傷気味になってしまった
私にとっては、この音楽が
心に染み渡ってしまうのです。
ただ、だからといって
「癒やしの音楽」として
聴くべきではありません。
12世紀に花開いた一つの音楽として、
しっかりと味わい尽くすのが
正しい聴き方といえるはずです。
やはり、音盤は愉し、です。
(2025.5.6)
〔「ヒルデガルト・フォン・
ビンゲンへの道」〕
Disc1
「平和のキス
~デンデルモンド写本からの歌曲集」
Disc2
「神の光~アンティフォナ&詩篇集」
Disc3
「偉大な神秘主義者
~ヒルデガルト・フォン・
ビンゲンと彼女の時間」
Disc4
「ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの
歌曲&アンティフォナ&
初期ルネサンスのモテット」
Disc5
「マテリア・ミスティカ
~ヒルデガルト・フォン・
ビンゲンによる四大精霊」
〔ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの
音盤はいかが〕
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