ジョルディ・サヴァールの「モンセラートの朱い写本」

即興演奏・豪華主義・優秀録音の「朱い本」

聖地モンセラート修道院。
訪れた巡礼者をもてなすために
歌われた曲を収めた写本は、
19世紀になって
朱色のビロードの表紙を施され、
「朱い本」と呼ばれるようになりました。
いわゆる「モンセラートの朱い本」です。
以前、ピケット指揮
ニュー・ロンドン・コンソートの盤

取り上げました。
そちらも魅力的な音楽のつまった
音盤でしたが、
本盤はさらに充実しています。

「モンセラートの赤い写本」

今日のオススメ!音盤

作曲者不詳:
 O Virgo splendens (monodic)
 O Virgo splendens
  (canon a 2 i a 3)
 Improvisacio arpa
 Stella splendens
 Improvisacio duduk
 Laudemus Virginem
 Improvisacio santur
 Los set gotxs
 Improvisacio duduk & flauta
 Splendens ceptigera
 Improvisacio cistre
 Polorum regina
 Improvisacio rebab i arpa
 Cuncti simus concanentes
 Improvisacio llaut
 Mariam matrem Virginem
 Improvisacio viella
 Imperayritz de la ciutat joyosa
 Improvisacio cornamusa &
  xeremia
 Ad mortem festinamus
 O Virgo splendens
  (canon a 3 & monodic)
 Quant ai lo mont consirat

ラ・カペラ・レイアル・デ・カタルーニャ
エスペリオンXXI
ジョルディ・サヴァール
 (指揮・レベック・ラバーブ・ビウエラ)
録音:2013年

基本的に「モンセラートの朱い本」は、
10曲から成り立っています。
それらはCD1枚分に収まるくらいの
分量であり、
通常は全曲が録音されます。
したがって、どの音盤であれ、
同じ音楽が収録されているはずです。
しかしピケット版と異なり、
本盤は曲数がだいぶ増えています。
曲目を確認すると、1曲を分割して
複数トラックで収録していることと、
最終にボーナス・トラックなるものが
あるため、
全22トラックとなっているようです
(ピケット盤は10トラック)。
この両者を比較しながら聴いてみると、
まったく別の音楽のようにも
感じられます。

Llibre Vermell de Montserrat

理由の一つは、本盤の場合、
各曲の前に即興演奏が
収録されているという点です(それに
よってトラック数が増加している)。
これがまた素敵です。
まるでジャズを聴いているような
感覚に浸ることができます。
この時代の音楽は
かなり自由度が高かったのでしょう。

二つめは、
伴奏の規模が大きいことでしょう。
シンプルに絞り込んだ演奏が主流である
古楽の世界において、あえて
逆張りしたような面白さがあります。
しかも聴感上、
派手さが前面に押し出されています。
この時代、そうした演奏を
していたのかどうかはともかく、
エンターテインメントとして
十分に成立しています。

そして三つめとして、
録音の優秀さが挙げられます。
冒頭の鉦(らしき楽器の音)から
違います。
音の広がりが大きいのです。
臨場感溢れる音楽が
スピーカーから飛びだしてくるのです。
通常の古楽演奏より
厚みがあるのですが、
それらの楽器の音一つ一つをしっかりと
マイクがとらえきっています。

さらに、本盤の構成が豪華絢爛です。
かなりの厚みのある
ブック型のパッケージ。
それもなんと200ページ(それに
24ページの別冊日本語訳が添付)。
ジャケット・デザインは、
赤い革張りをイメージさせる
豪華な体裁。
しかも会場での演奏を収めた
DVD付き(しかし
PAL方式であるため再生できず)。
クラシック音楽でさえ
ストリーミング配信や
MP3ダウンロード販売が
主流になりつつある時代に明らかに
逆行している豪華パッケージ戦略。
嬉しすぎて涙がでそうです。

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なお、DVDが再生できず、
モヤモヤしていましたが、
YouTubeにしっかり
アップされていました。
全73分、すべて収録されています。
感動的です。
音は今ひとつですが、
演奏の楽器がよくわかり、
理解が深まります。

El llibre vermell de Montserrat

素朴な質感のピケット盤も
この曲本来(と思われる)の姿を
示していて魅力的でしたが、
ど派手な仕掛けで
この曲の新しい可能性を提示した
サヴァール盤も
味わい深いものがあります。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2025.4.29)

〔関連記事:ピケット盤「朱い本」〕
「モンセラートの朱い本」を聴く

〔「モンセラートの朱い本」はいかが〕

〔ジョルディ・サヴァールの音盤〕

Dmitrii SlepnevによるPixabayからの画像

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