「薔薇の中の薔薇」アントネッロ

アルフォンソ10世「聖母マリアのカンティガ集」を聴く

中世の音楽を探検していると
たどり着く作品の一つがこの
アルフォンソ10世編纂の
「聖母マリアのカンティガ集」でしょう。
13世紀半ばに
詩人・楽士・ムーア人の踊り手の
協力を受けて編纂された、
400を超えるカンティガ
(叙情的な歌謡)の曲集です。
なんと日本人演奏家集団の
録音がありました。

「薔薇の中の薔薇」アントネッロ
アルフォンソ10世(編纂):
 聖母マリアのカンティガ集

今日のオススメ!音盤

アルフォンソ10世(編纂):
 プロローゴ「詩を作り歌うとは」
 カンティガ第1番
  「これから私は尊敬された
   女主人のために歌います」
 カンティガ第330番「薔薇の中の薔薇」
 カンティガ第15番「すべての聖人たち」
 カンティガ第139番
  「驚くような、慈悲にあふれ、
   実に美しい奇蹟を」
 カンティガ第384番
  「その大変な美しさゆえに
   花の中の花と呼ばれる方は」
 カンティガ第167番
  「聖処女を信頼して
   熱心に祈る者は誰でも」
 カンティガ第100番
  「聖母マリア、夜明けの星よ」
 カンティガ第166番
  「人々は罪によって」
 カンティガ第60番
  「アヴェとエヴァの間には
   大きな違いがあるのです」
 カンティガ第26番
  「驚くには値しません、もし世界を
   お裁きになる方の母君が
   良い裁きを下せるとしても」
 カンティガ第422番
  「神の母よ、そのときわれらの
   ために御子にお祈り下さい」
 カンティガ第37番
  「美しく驚くべき奇蹟を」
 カンティガ第159番
  「聖母マリアは許しません、
   聖母巡礼を」
 エスタンピー(器楽)
 カンティガ第425番「喜びよ、喜びよ」

アントネッロ
 濱田芳通(音楽監督・リコーダー他)
 西山まりえ(歌・ゴシックハープ他)
 石川かおり(フィーデル)
 春日保人(歌・フルート)
 花井尚美(歌)
 藤澤絵里香(歌・ダルシマー)
 岡庭弥生(歌)
 矢野薫(オルガネット・プサルテリー)
 中村孝志(スライドトランペット・他)
 わだみつひろ(パーカッション)
録音:2006年

アルフォンソ10世は、
1221年生まれ、1284年没の
スペイン・カスティーリャ王国の
国王だった人物です
(在位:1252~1284)。
政治家としては失政続きであり、
その評価は
芳しいものではありませんが、
文芸活動を保護振興したことから
「賢王」の異名を取るにいたりました。
音盤によっては
「賢王アルフォンソ10世」と
表記されることがあるのは
そのためです。
この「聖母マリアのカンティガ集」は、
アルフォンソ10世が
編纂したものですが、
自らも作曲をしているため、
一部は自身の作品と考えられています。

1221 AlfonsoX

「聖母マリアのカンティガ集」は、
聖母マリアを崇め奉る音楽ですから、
グレゴリオ聖歌のような教会音楽を
イメージしがちです。
しかしこの作品群は、
そうしたものとはまったく異なります。
もっと土俗的であり、
一般民衆の中から生まれた音楽のように
感じられます。
シンプルな器楽と、
旋律があるのかないのか
わからないような「歌」の絡み合いが、
時空を超えて中世スペインの空気を
運んでくるのです。

「聖母マリアのカンティガ集」について、
多くの盤を聴いてきたわけでは
ないため
正確なことは書けないのですが、
本盤の特徴は
「地声」による歌唱でしょう。
HPの宣伝文にも書かれてあるように、
音楽監督の濱田は、
この時代には地声による発声が
用いられていた、という研究成果から、
従来の発声法ではなく、
地声による歌唱を採用しているのです。
美しく聴かせようとするのではなく、
この曲集の原初の姿に戻して
提示しようとしたのでしょう。

その効果は抜群です。
エキゾチックで神秘的な雰囲気の漂う、
これまで聴いたことのないような
中世の音楽として仕上がっています。
その濃密なエネルギーは、
呪術のようでもあり、
民衆の熱気のようでもあり、
圧倒されます。

これが日本人演奏家によって
創り上げられたことは驚きです。
ヨーロッパの著名な演奏家ばかり
注目していたのですが、反省してます。
この音盤の存在に気づいたときには
すでに絶版状態・入手困難。
中古盤を探して
ようやく入手できました。
貴重な演奏であり、貴重な音盤です。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2025.4.22)

〔関連記事:中世の音楽〕

ワン・ヴォイス
アニマ・メア
女声によるグレゴリオ聖歌
armennanoによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

モンテヴェルディ:マドリガーレ集
イザークの音楽
アレグリ:ミゼレーレ

【こんな音盤はいかがですか】

コメントを残す