Hiroko Kurai 「Live Concerts」 を聴く

正体不明の録音を聴く愉しみ

先週とりあげたストリーミングによる
モーツァルト:ピアノ協奏曲第21番。
日本人演奏家の録音を
探して聴いているうちに、
正体不明の演奏を見つけました。
Hiroko Kurai なるピアニストの
ライヴ収録の音源です。
このピアノがまた
耳に心地良く響きます。

「Live Concerts」 Hiroko Kurai

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バッハ:
 ピアノ協奏曲第1番ニ短調BWV1052

Hiroko Kurai(p)
※演奏団体の表記なし

モーツァルト:
 ピアノ協奏曲第21番ハ長調K.467

Hiroko Kurai(p)
大阪フィルハーモニー交響楽団
大友直人(指揮)

モーツァルト:
 ピアノ協奏曲第22番変ホ長調K.482

Hiroko Kurai(p)
Osaka Telemann Ensemble

シューマン:
 ピアノ五重奏曲変ホ長調Op.44

Hiroko Kurai(p)
ヴィア・ノヴァ四重奏団

バッハ:
 イタリア協奏曲BWV971

Hiroko Kurai(p)

検索してみると、YouTubeにこれら
5曲がすべてアップされています。
Hiroko Kurai氏自身の
チャンネルのようであり、
どうやら公式に公開されているものと
考えられます。

Mozart Piano Concerto No.21
Mozart Piano Concerto in E flat major

モーツァルトのK.467とK.482ですが、
先週とりあげた
フルネルやレヴィンのような
鮮烈さはないものの、
端正なたたずまいの
しっかりした演奏です。
新しいことをしようとする気持ちよりも
曲の本質を丁寧に表現していくことを
優先させたような
演奏であると感じます。
特にK.467の第2楽章は、
じっくり丹念に弾いている分だけ、
美しさが際立って聞こえてきます。

この2曲では、K.482の方が
ピアノがとてもよく歌っている
印象を受けます。
煌びやかなピアノが前面に押し出され、
カデンツァが美しく響き渡ります。
なんとも味わい深い
K.482に仕上がっているのです。

Bach Piano Concerto No. 1

その前に配置されたバッハの協奏曲も、
近年のピリオド楽器演奏とは異なり、
通常のモダン・オケのスタイルです。
こちらも奇を衒ったようなところはなく
折り目正しい
誠実な演奏となっています。

ただしここまでの3曲、
音が今ひとつであるのが惜しまれます。
amazon musicに
近年アップされた曲でありながら、
音にキレがありません。
ピアノの音がややくぐもって
聞こえてきます。
60~70年代のアナログによる
ライブ収録のような感触があります。
リリースは2023-12-15と
なっているので、
新しいものだとは思うのですが、
もしかしたら発掘された古い録音が
今になって発信されたという
可能性もあります。

Schumann Piano Quintet

4曲目、シューマンの
ピアノ五重奏曲が「謎」です。
共演がヴィア・ノヴァ四重奏団と
なっているのですが、
確かこの四重奏団は70年代に
エラート・レーベルから
いくつもの名演をリリースしていた
団体と同一なのかどうか。
同一だとすれば
今現在も活動しているのか、
それともこの録音自体が
やはりかなり古いものなのか?

それはともかく、
こちらも演奏は素敵です。
憂愁を含んだシューマンの楽想が
味わい豊かに再現されています。
近年の演奏のような
駆け抜ける痛快さはありません。
しかしじっくりと腰を落ち着かせて
シューマンの音楽に
取り組んでいる様子がうかがえます。
室内楽であるため、
音質もあまり気になりません。

Bach Italian Concerto in F major

最後にアンコール曲のように加えられた
5曲目、
バッハのイタリア協奏曲 BWV971が、
しみじみとした味わいを感じさせ、
プログラムを静かな余韻とともに
閉じていきます。
この曲はピアノ単独であるためか、
音はさらに
聴きやすいものとなっています。
音の粒立ちが良く、ピアノの音が
スピーカーからこぼれ落ちてくるように
聞こえます。
このHiroko Kuraiなる演奏者の
バッハ・アルバムを聴いてみたい、
そう強く思わせるような
一曲となっています。

全体を聴き通して振り返ると、
誠実な人柄を感じさせるという
印象を強く受けます。
そのピアノの音からは、
凜然とした演奏者の姿が
見えてくるようです。
情報がほとんどないためか、
かえって先入観なく
聴き込むことができました。

それにしてもamazon musicは、
表示される情報が少なく、多くの場合、
音盤の発売元のHPで
内容を確認するのですが、
本録音は情報が出てきません。
Rufftone Recordsなるレーベルからの
リリースのようですが、
CDの情報が得られないのです。
協奏曲の伴奏の団体や指揮者、
カデンツァの作曲者、録音年、
録音会場、明らかに情報不足です。

それどころかHiroko Kuraiなる
ピアニストの漢字表記すら
検索できません。
某大学の音楽講師に
それらしい名前を見つけましたが、
確証が持てません。

「Live Concerts」というタイトルが
付されているのですが、
曲目と共演者からして、
一回のコンサートの収録でないことは
確かです。
何回かの演奏を
まとめたものであるはずです。

しかも各曲が楽章ごとの
トラック分けがなされていません
(通常、K.467であれば
3楽章構成であるため、
3つのトラック分けが
なされているのですが、
本録音は1トラック1曲という
初期のCDのような構成です)。
あえてそうしたのか、
それとも制作側の技術不足で
そのような形にしかならなかったのか。
「謎」が多すぎます。

でも、わからないなりに、
面白さを味わえます。
ストリーミングで
提供されるものの中には、
CDとして発売されていないものもあり、
宝探しに似た面白さを
味わうことができます。
いい世の中になりました。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。

(2025.3.25)

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