
3つの楽器を弾き分けた、魅力的な協奏曲集
以前、メロディ・チャオによる
ハイドンのピアノ曲全集
(モダン・ピアノ)を取り上げた際、
「時代楽器による演奏も
絶対に面白いはず」とし、
「ハイドンのピアノ協奏曲全集は
意外に少なく、知られているところでは
コープマンによるチェンバロ演奏の
全集があるくらいでしょうか」などと
書きました。
実は簡単に見つかりました。
それもやはり以前取り上げた
ハイドンのピアノ・ソナタ全集の演奏者
ショルンスハイムによる音盤です。
ハイドン「8つの鍵盤楽器協奏曲集」

CD1
ハイドン:
オルガン協奏曲ハ長調HobXⅧ-1
チェンバロ協奏曲ニ長調HobXⅧ-2
チェンバロ協奏曲ハ長調HobXⅧ-5
フォルテピアノ協奏曲ト長調
HobXⅧ-4
CD2
ハイドン:
フォルテピアノ協奏曲ニ長調
HobXⅧ-11
オルガン協奏曲ハ長調HobXⅧ-10
チェンバロ協奏曲ヘ長調HobXⅧ-3
オルガン協奏曲ハ長調HobXⅧ-8
クリスティーネ・ショルンスハイム
(org・cemb・fp)
新デュッセルドルフ宮廷楽団
メアリー・ウティガー(指揮)
録音:2008年
ハイドンのピアノ協奏曲は、
3番、4番、11番の3曲であり、
多くのピアニストが、
ハイドンのピアノ協奏曲集を編む場合、
この3曲を取り上げています。
しかし鍵盤楽器のための協奏曲
(HobXⅧ)としては1~11まであり、
そのうち第7番、第9番の
オルガン協奏曲は偽作の疑いが強く、
第6番は
ヴァイオリンとピアノのための
協奏曲であるため、
カットされたものと考えられます。
第4番・第11番はピアノ協奏曲とも
されることがあるため、
フォルテピアノを採用したのでしょう。
それ以外のものについて、
チェンバロとオルガンを、
どのような基準で採択したのか、
英文の解説を読み解くことができず、
わかりませんでした。

気になるのは第2番です。
コープマンをはじめとする演奏家は
「オルガン協奏曲集」として
第1・2番をとりあげているのですが、
ショルンスハイムは第2番については
チェンバロで演奏しています。
それはともかく、素晴らしい演奏です。
軽快で明るいのです。
ショルンスハイムは1959年生まれの
ドイツ人ピアニストです。
バロック音楽の演奏の
第一人者であるとともに、
16世紀から19世紀の文献楽譜の
研究者でもあります。
本演奏はピアノ・ソナタ全集とともに、
ショルンスハイムによる
2000年初頭におけるハイドン演奏の
研究の成果でもあるのです。
とはいえ、
学術研究の匂いはまったくなく、
ショルンスハイム自身が
演奏を愉しんでいるようすが、
音盤から伝わってくるような
出来映えなのです。
ショルンスハイムの
「ハイドンを弾く喜び」が、
そのまま私たちの
「ハイドンを聴く喜び」として
シンクロしてくるかのようです。
メロディ・チャオの演奏も、
モダン・ピアノ特有の華やかさがあり、
聴いて愉しい演奏でした。
本盤はそれとはまったく雰囲気が
異なりながら、
ハイドンの音楽の愉悦を
しっかりと表現しています。
モダン・ピアノとピリオド楽器、
どちらがいいかという問題では、
もはやありません。
特筆すべきは伴奏の
新デュッセルドルフ宮廷楽団です。
初めてその名を聞いたオケですが、
ピリオド楽器オケとして最高ともいえる
パフォーマンスを発揮しています。
本演奏の魅力の半分は
このオケの成果といえるのではないかと
感じます。
録音も秀逸です。
機動性抜群のオケの音と、
縦横無尽に跳び回る
ショルンスハイムのキーボードの音を、
十全にとらえています。

ハイドンはこんなにも素敵な
鍵盤楽器の協奏曲を
創り上げていたということを、
再度認識することができました。
その素晴らしさが
今ひとつ知られていないのは、
どうしてもモーツァルトの
ピアノ協奏曲の陰に
隠れてしまっているからでしょう。
先日来取り上げている
シュターミッツや
ミスリヴェチェクとともに、
モーツァルトの背後で輝きを放っている
作曲家および作品を、
しっかりと味わっていきたいものです。
やはり、クラシック音楽は愉し、です。
(2025.2.25)
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